腕立て伏せを100回やっても、筋肉はつかない・・・!? 健康ボディの意外なメカニズム
~筋肉科学の権威による筋トレ講座~
1983年、ボディビル日本選手権優勝時の石井先生
東京大学大学院総合文化研究科教授
石井直方先生

1955年生まれ、東京都出身。セミ取りがきっかけで動物や生物に興味を持ち、東京大学理科Ⅱ類に進学。現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。自らボディビルダーでもある筋肉科学の権威。

筋肉は、第二の心臓である

松尾貴史(以下、松尾) 世界が認める筋肉科学の権威ということで、もう50代でいらっしゃるのに・・・見た目はもちろん、鋼のような雰囲気をお持ちという印象を受けました。学生時代にボディビル世界選手権3位に輝いたというのも納得ですね。石井直方先生は、筋肉全体は第二の心臓であるとおっしゃっていますが、どういう意味でしょう?

石井直方(以下、石井) そうですね、筋肉というと、運動するときに縮んで力を出してくれる、エンジンのような役割が注目されがちですが、実際には体のなかでさまざまなことをやってくれているんですね。

松尾 たとえば?

石井 体には体温がありますよね。たえず36度ぐらいの体温をキープしている。そのためには、体のなかで熱をつくるものが必要なわけですが、筋肉は体のなかのいちばんの熱源なんです。筋肉が熱を出してくれるので体温が保たれる。

岡村仁美アナウンサー(以下、岡村) 脂肪よりも、筋肉なんですか?

石井 ええ。脂肪は、褐色脂肪という特殊な脂肪しか熱を出さないんですね。ほんの少量しかない脂肪なので、基本的にはもし筋肉がなくなると体温が保てなくなる、ということになります。

松尾岡村 なるほど。

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石井 加えてもう一つ。今、第二の心臓という話をしましたが、筋肉は、縮んだり緩んだりを繰り返しますよね、このとき、筋肉のなかの圧力が高くなったり低くなったりします。この縮んで緩んでという動きが、心臓と同じように、全身に血液を流してくれているんです。

ですから、筋肉を使わないでじーっとしていると、重力の影響で血液や体液が足のほうに溜まってしまうわけです。すると、足がむくんだり、あるいはエコノミークラス症候群のように血栓ができやすくなる。

松尾 人間の体には、いったい何%ぐらい筋肉がついているんですか?

石井 うーん。たとえば、体重の何%ぐらいあるかという見方をするとわかりやすいかもしれませんね。日本人の場合は、まぁ、20代の元気のいい男性で、40%ぐらい。女性で35~37%ぐらいですね。

松尾 ちょっとトラブルがあって、寝てなきゃいけないというときに、筋肉が減っていきますよね。もう目に見えて減るじゃないですか。そういう場合、どれぐらいの勢いで減っていくものなんですか?

石井 これは早いです。使わないと、1日に0.5%ぐらいでしょうか。

松尾 1日でですか! ってことは、2日で1%ということですよね。

石井 そうですね。2日で1%ですね。

松尾 ということは、20日で10%! ええーっ。それじゃ、1ヵ月ぐらいじっと寝てなさいっていうことになると、もう3割ぐらい筋肉が減ると。

石井 ・・・そうですね。もうちょっと減るかもしれない。

松尾 ええーっ!?

石井 減り方は、筋肉によって違います。特に、重力に逆らって関節を伸ばす筋肉、たとえば膝を伸ばす筋肉なんかでは、減り方が激しいですね。

松尾 筋肉のほうが脂肪よりも重たいから、瘦せたいときは筋肉を減らしたほうが効率よく体重を減らせますよね。

石井 はい。

松尾 だけど、逆に燃やせる割合が減っちゃうから、太りやすくなる。つまりエネルギーを燃焼しにくくなるということはありますか?

石井 そうですね。たとえば安静時代謝といってじーっとしている場合ですが、筋肉が1kg減ると、1日あたりのエネルギー消費量が約50キロカロリーぐらい減るというふうに考えられます。

岡村 想像していたよりもだいぶ少ないです・・・。

石井 ええ。たかだか50キロカロリーなんですよね・・・。つまり、ご飯をお茶碗4分の1ぐらい。そんなもんなんです。だから筋肉を増やして代謝を上げようというのは正しいんですけれども、大騒ぎするほどの量ではない。

でも、毎日積み重なってゆくと、1日50キロカロリーなら100日で5000キロカロリー、1年で1万8000キロカロリーなので、筋肉を1kg減らしてしまうと、計算上は、脂肪が2.5kgぐらいついてしまう(笑)。

1年にするとそれぐらいの換算になりますね。

赤い筋繊維と白い筋繊維の顕微鏡写真(染色済み)。色が濃いのが赤筋

岡村 筋肉って、いろんな種類があると思うのですが、どういう筋肉を鍛えると太りにくいのでしょう?

石井 これもなかなか、ひと言でいうのは難しいですね。たとえば、ジョギングやウォーキングといった日常生活のなかで使う、脂肪をよく燃やしてくれる筋肉というのは、いわゆる赤筋という赤い筋肉です。これは酸素をたくさん取り込み、ゆっくりと収縮をしながら、脂肪をエネルギーとして使って活動してくれる。

松尾 回遊魚のような。

石井 ま、そうですね。マグロなんか見ても、常に泳ぎ続けるために必要なんですね。

松尾 赤い筋肉が(笑)。

石井 ええ。ところが、じーっとしてるときに体温をつくる筋肉というのは、実は、赤い筋肉じゃなくて、白い筋肉だということが、ここ15年ぐらいの研究でわかってきています。これはヒラメなど白身魚の筋肉です。白い筋肉はしょっちゅう動くわけじゃなくて、普段は怠けている。

でも、いざというときに力を出すための速筋、速い筋肉なんです。

松尾 瞬発力が必要なときに使われるような。

石井 そうです。そして、白い筋肉は基本的に、脂肪をエネルギー源としないのですが。しっかり鍛えてゆくと、白い筋肉がピンク色に変わってくるんですね。

松尾岡村 へぇ~。

石井 そうすると、脂肪をエネルギー源として使える能力が身についてきて、力もあればスタミナもあるという筋肉に変わっていきます。実は、そのピンク色の筋肉が熱をつくる能力がいちばん高いということがわかってきました。ということは、白い筋肉を一所懸命鍛えるとよい、ということなんですね。

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