佐藤優の読書ノート---鎌倉孝夫/佐藤優 『はじめてのマルクス』ほか

はじめてのマルクス
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鎌倉孝夫/佐藤優『はじめてのマルクス』金曜日、2013年

マルクスの『資本論』の方法に基づいた社会分析は、われわれが置かれている社会的位置を客観的に認識するために重要だ。しかし、現在、このような視座から作られた経済学の入門書が少ない。それならば自分で作ってみようと思って、この本ができた。鎌倉孝夫先生(埼玉大学名誉教授)は、私が高校生時代に『資本論』の読み解きを手引きしてくれた恩師である。

私は本書の目的についてこう記した。

<例えば、「株価が上がったのでアベノミクスは成果があった」とか「いずれ株価が暴落してアベノミクスの失敗が可視化される」というような議論をあちこちで耳にする。日本経済がうまくいってるか、いないかを判断する基準として、誰もが株価を気にする。しかし、株価を基準に経済を考えるという発想自体が、既に特殊なイデオロギーを自明の前提としていることに気づいている人があまりにも少ない。すこし乱暴な言い方をすれば、株価至上主義という宗教にわれわれはマインドコントロール(洗脳)されているのである。しかし、マインドコントロールされている集団の中にいると、その現実に気づくのは至難のわざだ。

企業に勤務する社会人で、自己責任論や成果至上主義で疲れ切っている人が加速度的に増えている。リストラの不安にさらされている人もたくさんいる。国家公務員、地方公務員でも、自らの仕事にやりがいを見いだせないという悩みを抱えている人は多い。将来が不安になり一年生のときから就職活動で走り回り、腰を落ち着けて勉強をすることができず、何のために苦労して受験勉強をして大学に入ったのかわからなくなったと嘆く学生もめずらしくない。もし、あなたが、そのような悩みを抱えているならば、是非、この本を読んでほしい。なぜ日本の社会がこういう状態になっているかを、この対談でわかりやすく解き明かしているからだ。>(3~4頁)

それから『資本論』と宇野弘蔵の方法論的差異についても、示唆に富んだ内容が盛り込まれている。例えば、以下の箇所だ。

<鎌倉 結局、ぼくは宇野体系の根本的な重要な提起は、資本主義の歴史的性格の理論的な証明だととらえているんです。それは、先ほど述べた労働力は本来商品とならない、ということにかかわります。

佐藤 今から三〇年前に同志社の学生会館で鎌倉先生が講演をしたときに私が質問して、三位一体公式で『資本論』が終わっていることには意味があるのではないか、ということを述べたら、鎌倉先生から資本論というのは閉ざされた体系ではないという説明がありました。ここから理論と実践の関係について考えなくてはいけないのではないかという議論を三〇年前にしたんです。

鎌倉 そうでしたか。宇野「原論」の最後のところがなかなか難しくて、ちゃんと位置づけしていないのです。

佐藤 トリアーデ(ヘーゲル弁証法で、正・反・合の三つの契機を総称いう語)になっていないのですね。

鎌倉 トリアーデになっていないのです。ぼくが一応まとめたのは、まず資本の理念として財産所有・利子。資本の理念というのは資本=財産を持っているだけで、労働者を支配したり、経営活動をやったりしないで、最低限利子を生むということです。これが資本としての理想形態で、マルクスには『資本論』を書く前からそのとらえ方があったのです。・・・・・・

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・鎌倉孝夫『株価至上主義――その下で人間社会はどうなるか』御茶の水書房、2006年
・佐藤優『私のマルクス』文春文庫、2010年
・鈴木鴻一郎『一途の人――東大の経済学者たち』新評論、1978年