佐藤優のインテリジェンスレポート「ウイグル情勢をめぐる2つの可能性」
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol024より
【はじめに】
ウイグル情勢の緊迫化が今後の中国情勢を分析する鍵になると思います。アジア太平洋地域で急速に帝国主義化が進んでいます。特定秘密保護法案をめぐる論議についても、報道機関の取材の自由や国民の知る権利が規制されるという視座では事柄の本質を捉え損ねると思います。どれだけ激しい批判がなされても、この法案は通ると私は見ています。なぜなら、近く設置される国家安全保障会議(日本版NSC)と特定秘密保護法は不可分のパッケージになっているからです。

日本版NSCについて、地震や台風などの災害時の危機管理や、インテリジェンスの手法を用いた情報収集をするという印象を持つ人が多いのですが、これは大きな間違いです。日本版NSCは、日本が戦争に参加するか否かについての政治意志を決定する機関です。大日本帝国憲法(旧憲法)下の統帥権を行使するのが日本版NSCの仕事です。

憲法9条を改正せずに、事実上、戦争を可能にする国家再編が行われているのです。戦争を想定する以上、それに対応した法律が必要になります。旧憲法下では国防保安法がありました。これに相当するのが特別秘密保護法なのです。

この法律の主たる適用対象になるのは、防衛官僚、自衛隊員、防衛産業関係者、外務官僚になります。そして、関係者の人物調査と行動確認、さらに摘発を行うのは主に警察(事案によっては検察)になります。どの国でも、いつの時代も、警察と軍隊はライバル関係にあり、また、対外インテリジェンス機関の創設をめぐって外務省と警察は縄張り争いをしています。特定秘密保護法を巧みに運用することによって、警察の力が飛躍的に強化され、旧憲法下の内務省のようになることを私は危惧しています。警察官僚の論理で、外交やインテリジェンスはできません。

【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol024 目次】
―第1部― インテリジェンスレポート
 ■分析メモ No.55 「ウイグル情勢をめぐる2つの可能性」
 ■分析メモ No.52 「日露外交防衛担当閣僚会合『2プラス2』」
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート No.72 『はじめてのマルクス』
 ■読書ノート No.73 『反日・愛国の由来――韓国人から見た北朝鮮』
 ■読書ノート No.74 「コミュニタリアニズムと経済学批判――マッキンタイアあるいは宇野弘蔵の社会哲学――」
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 今後のラジオ出演、講演会などの日程
〔PHOTO〕gettyimages

分析メモ No.55 「ウイグル情勢をめぐる2つの可能性」

【事実関係】
1.10月28日昼、中国・北京市中心部の天安門に小型四輪駆動車が突入、炎上し、死傷者が発生した

2.10月30日、北京市公安(警察)当局は、北京中心部の天安門前で起きた車両突入事件を「テロ事件」と断定し、ウイグル族の容疑者5人を拘束した

3.11月1日の会見で中国外交部の華春瑩(か・しゅんえい)副報道局長は、「ETIM(東トルキスタン・イスラーム運動)は国連安全保障理事会が認定したテロ組織だ」と述べた。

【コメント】
1.―(4)
中国政府は、ウイグル独立派の東トルキスタン・イスラーム運動(ETIM)が天安門での車両突入事件に関与していると主張している。1日の会見で中国外交部の華春瑩副報道局長は、「ETIMは国連安全保障理事会が認定したテロ組織だ」と述べた。今後、中国当局が「テロ対策」の口実でウイグル族への取り締まり強化することによって生じる国際社会の批判に対して予防線を張っているのであろう。

2.―(1)
ウイグル人は、ウイグル民族に属するという自己意識とともにムスリム(イスラーム教徒)であるという複合アイデンティティを持っている。ウイグル族の中央政府への異議申し立て運動には、2つの潮流がある。

2.―(3)
ウイグル人が持つイスラーム意識が強まる場合、これが中東のアルカイダやアフガニスタンのタリバーンに連なる原理主義過激派と結びつく危険がある。既にウイグル人の過激派が国際的に暗躍している。過去にロシアのチェチェン共和国でイスラーム原理主義過激派に加わっていたウイグル人が拘束され、中国に強制送還されたことがある。さらに原理主義過激派の影響が、中国国内の回族(漢人のムスリム)に及ぶ可能性もある。いずれにせよ、ウイグル人問題が先鋭化することによって、中国国内にとどまらず、中央アジア、北コーカサス、中東など、広範な地域でテロや騒擾を誘発する危険がある。

3.―(1)
ウイグル情勢の緊迫によって、内陸の西部を安定させることが習近平政権にとっての焦眉の課題になった。東シナ海で、日本を挑発している余裕はない。ウイグル情勢が緊張すればするほど、尖閣問題を日本に有利な方向で解決する可能性の窓が開く。

3.―(2)
ウイグル問題が中国の国家体制に与える影響について、日本外務省も本腰を入れて情報収集、調査分析を行う必要がある。そのために重要なのは、ウイグル情勢に通暁した高度な専門家を養成することだ。・・・・・・

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