官々愕々 小泉劇場への期待

「原発ゼロを目指すべきだ」と発言した小泉純一郎元首相。一躍時の人になった感がある。これだけ小泉フィーバーが過熱する原因の一つに、実は安倍政権が圧倒的優位にある一方、野党側は共産党以外、党存立の危機にあるという事情がある。自力での危機脱出が困難なので、どうしても他力本願になりやすい。

勢いが衰えた脱原発の市民運動も同じだ。安倍政権が堂々と原発推進に舵を切るのを見ながら、彼らは歯がゆい思いをしている。

そこに突然現れたかつての国民的ヒーロー、小泉純一郎元首相。脱原発勢力の全てが、小泉氏との連携を夢見るのは自然な流れだ。ネタ不足で困っているマスコミの政治部も小泉劇場再来を期待し、扱いを大きくしてしまう。

しかし当の小泉氏は、当面一人で脱原発キャンペーンを進めるつもりらしい。すぐに徒党を組むのはむしろマイナスだと考えているのだ。小泉氏は年内にも脱原発の本を出版予定だというが、この本が大ベストセラーになれば、小泉フィーバーもさらにヒートアップする。それが大規模な国民運動になるかどうかを小泉氏は慎重に見極めるはずだ。

国民運動には、季節も重要だ。脱原発のエネルギーを冬の間熟成させ、新たな市民運動が動き出すのを待つ。来年の春くらいから、それらの動きを糾合して一大国民運動に転換していくというのが一つのシナリオだ。

来春になれば、消費増税の負担を国民が実感する。夏までには何基かの原発について、再稼動の最終判断があるだろう。様々な国民の不満を集める形で、脱原発キャンペーンが急速に膨れ上がる可能性は十分にある。

まだ選挙は遠いが、'15年の統一地方選挙が視野に入るこの時期、世論の動きは徐々に政局に影響を及ぼし始める。安倍政権がこれを無視しようとしても、自民党の中の脱原発勢力が2年後の選挙を考えて動き出すこともありうる。

野党再編の動きも強まるだろう。さらに、小泉氏と細川護熙氏の元首相コンビの連携というような新たな動きも加わるかもしれない。

そして2016年の衆参の選挙で、郵政政局のように脱原発ワン・イシュー選挙で安倍晋三首相との対決構図を作り出すことに成功すれば、脱原発派が勝利する可能性は十分にある。
しかし、今のところ小泉元首相の脱原発宣言は、単に人間としての新たな哲学に目覚めただけという可能性の方が高い。だとすれば、小泉氏に代わる政治的リーダーを探すのが最大の課題となる。

世の中が期待するのが小泉進次郎議員だ。しかし、進次郎氏は自民党の中で実績を積むことを最優先させている。今、リスクを取るつもりはないということだ。総理候補になるにはまだ早い。この戦略は極めてまっとうだ。「期待のヒーロー」はそう簡単には現れそうにない。

小泉氏の今回の活動は、安倍自民が「党の原発政策はもともと推進、ゼロ志向の両論があった」と言い訳できる余地を残し、世の中の流れが脱原発へと傾いた時に、スムーズに政策転換できるようにしておこうという高等戦術に過ぎないという見方もある。だとすれば、自民党内の脱原発派をある程度育てて終わりなのかもしれない。

小泉氏は総理大臣ではない。小泉氏一人の力で、国民を脱原発に向けて動かすというのは、実は夢だ。しかし、国民自身が脱原発の大きなうねりを作れば、小泉氏がそれに呼応して、脱原発の動きをさらに突き進める可能性はある。

小泉頼みはやめて、我々自身が動かなければならない。月並みだが、私の結論はそういうことだ。

『週刊現代』2013年11月23日号より

『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
定価:500円(税別)
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。