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徹底取材 食品偽装の世界 リッツ・カールトン大阪&新阪急ホテル元従業員&納入業者が告白「でも、ほかもやっていますよ」
辞任会見の朝、自宅を出る出﨑前社長。阪急電鉄、宝塚大劇場の総支配人を経て、昨年社長に就任した〔PHOTO〕小川内孝行
偽装があった大阪新阪急ホテル「シィーファー」の厨房。チョコケーキの箱などが雑然と置かれていた

「僕はザ・リッツ・カールトン大阪(以下、リッツ大阪)の開業('97年)メンバーで、数年前までこのホテルのバーテンダーをしていました。僕がいた頃はメニューにある『フレッシュジュース』はすべて手搾りでした。ところが数年前からコストカットのためにジュースは既製品に替わった。今も現場で働いているバーテンは、『経費削減で制服のジャケットがベストだけになった』と嘆いていました。まあコストカットに躍起なのは、どこのホテルも同じですがね」(同ホテル元社員)

「九条ネギ」はただのネギ、「手ごねハンバーグ」はできあい、「レッドキャビア」はトビウオの卵―。阪急阪神HD傘下の9ホテルなどのメニュー偽装には、超高級ホテル、ザ・リッツ・カールトン大阪(大阪市北区)まで含まれていた。

同ホテルのレストランやロビーラウンジで提供されていた「フレッシュジュース」は、実は容器詰めされた既製品のストレートジュースをグラスに移し替えただけ。「芝エビ」は仕入れ値が約半分のバナメイエビで、「車エビ」はブラックタイガー、ルームサービスメニューの「自家製パン」には既製品が混じっていた。

ホテル業界に詳しいノンフィクション作家の桐山秀樹氏が言う。

ザ・リッツ・カールトン大阪(上)のロビーラウンジで、フレッシュと表記されていたジュース(下)。コストカットの一環だったという〔PHOTO〕小川内孝行

「最近、リッツ大阪はブラック企業化していました。アルバイトを正社員登用するわけでもないのに長時間働かせ、人件費を抑えているんです。'06年に阪急阪神HD傘下になってから、経営はずさんになり、一方でコストカットを進めていった。以前は食材の仕入れは現場のシェフの担当でしたが、'06年以降は仕入れ値の安い納入業者から食材を仕入れるネット入札制を導入したんです。経費削減には目覚ましい効果がありましたが、値段は高くてもよい食材を卸していた業者たちは、次々と振り落とされていった。リッツからは、『お客様のためにいい食材を選ぶ』という精神が急速に消えていきました」

阪急阪神HD系列のなかで、もっともメニュー偽装が多かった(8品目)大阪新阪急ホテルも、同じ納入システムを使用しているという。同ホテルに食材を卸している業者が匿名を条件に明かす。

「ホテルが作ったウェブ上の注文フォームに従って食材を打ち込んでいくだけなので、昔のようにホテルの担当者と直接会ってやり取りすることはほとんどありません。そもそも食材を発注しているのが営業や管理部門の人間なのか、シェフなのか、業者側にはわからない。産地証明書は、新規に納入する商品にのみ必要です。たとえば、『新しく○○を仕入れたい』と言われたときだけ、その商品に産地証明をつける。次回の取引からは必要ありません。『1円でも安く卸せ』という圧力のなか、大口の受注先を逃したくないので、産地を偽装して原価を安くしている業者もいます。こうした傾向は、ほかのホテルでもあることですよ」

大阪新阪急ホテルの厨房で作業する料理人。宴会場の料理もここで作られている

本誌は同ホテルのレストランの厨房をのぞいてみた(前ページ右下写真)。客席に比べかなり狭い。これではすべてのメニューを手作りするなど不可能だろう。事実、厨房の入り口には、既製品のチョコレートケーキやコーンスープの箱が転がっていた。リッツ大阪で偽装に使われていたフロリダ産果汁を輸入していた飲料メーカーは、次のように言う。

「弊社の製品は、ほとんど問屋に卸しています。そこから各店舗やホテルに流通するので、末端までは把握しておりません。報道で事態を知って驚いています。ジュースの卸値は業者様によって変わるので一概には言えませんが、参考価格として楽天で販売している一般価格は1800mlの6本入りで6600円です」

阪急阪神HD系列の吉祥寺第一ホテル(東京)のパンフレット。黒インクで「地中海」の文字が消されている

現在、リッツ大阪ではこの果汁を150ml、1525円(税込み)の「オレンジジュース(ハーダース)」としてメニューに載せている。かなりいいお値段だ。

'06年から延べ約7万9000人もの客に偽装食材を提供してきた阪急阪神ホテルズでは、出﨑弘社長(55)が辞任に追い込まれた。10月28日の辞任発表の朝、自宅で直撃すると、彼はこう答えた。

―偽装ではなく、あくまで「誤表記」で通すつもりか。

「会社が意図して(客を)欺いたり、不当な利益を得た事実があれば偽装です。今回の件はあくまで誤表記です」

―仮に誤表記なら、どこでミスがあったのか。

「それは現在調査中です。これからも会社に行って調査します」

黒く塗りつぶされた文字は「旬の鮮」。旬ではない冷凍魚などを使っているということだろうか

それから1日もたたないうちに、彼は「偽装ととられても仕方ない」と認めたが、すべては遅すぎた。

銀座の一等地にあった高級ホテル「ホテル西洋銀座」の総支配人を務め、現在は武蔵野大学でホスピタリティマインドを教える洞口光由教授が言う。

「出﨑社長は阪急電鉄出身ですから、現場のことには詳しくなかった。メニューに関しての報告は受けていたが、詳細までは知らなかったハズです。原価率などの数字とにらめっこしながらメニューを決めるのは、料飲部の部長と総料理長ですから、一番悪いのはこの二人です。リッツ大阪については、運営はアメリカのアトランタにあるマリオット・インターナショナルに委託されています。阪急阪神HDは口を挟めなかったので、総支配人の独断でやったことでしょう。不景気でドル箱だった宿泊部門の収益が減り、そのしわ寄せがコストカットしやすいレストラン部門に来ている。ほかの一流ホテルでも似たような話は聞いています」

事実、リッツ大阪などの偽装発覚直後、ルネッサンスサッポロホテル、札幌プリンスホテル、札幌グランドホテル3ホテルでも、エビのメニュー偽装が明らかになった。さらに、ホテルコンコルド浜松では野菜の産地偽装、JR四国系列の3ホテルでも肉の偽装などが見つかった。つまり、メニューの偽装など、どこのホテルでもやっていることなのだ。

上下のパンフレットを見比べると突貫工事の跡が。偽装発覚前のパンフレットにあった「武蔵野地粉で作った」という文字が、修正テープで消されている

「煮れば絶対わからない」

阪急阪神ホテルズが内部調査を行ったキッカケは今年6月、東京ディズニーリゾートのホテルミラコスタや、品川プリンスホテルなどで相次いで食品偽装が発覚したことだった。前者は車エビと偽ってブラックタイガーを使い、後者はチリ産牛のステーキを国産と表記していた。プリンスホテルの元管理職が明かす。

「メニューの偽装は毎年のようにありましたが、いくら現場がおかしいと思っても声を上げられる雰囲気ではありませんでした。だから厨房の料理人や購買部の社員が不正に気づいても、表面化することはなかった。その風潮は今でもあまり変わっていないと思います。また、プリンスホテルの総支配人は、ホテルで起きたことの全責任を負いますが、本社に戻れば部長級の肩書で、それほど偉いわけではありません。それなのに何百人もの従業員を管理し、本社のリクエストに応えて、コストカットをして利益を出さなければならない。プリンスに限らず、どこのホテルでも同じような状況で、有名ホテルの総支配人は相当なストレスを抱えています」

全国展開している高級ホテルチェーンでシェフをしていた40代の男性が言う。

「ウチのホテルでも安いバナメイエビを使っていました。芝エビのエビチリとして出していましたが、クレームが来たことは一度もありません。地鶏を謳ったメニューでブロイラーを使うことも多かった。ブランド牛を謳って違う牛を使っても、宴会用のすき焼きにしてしまえば、まず見分けられる人はいない。アワビの最上級である三陸産と称して、秋田産や房州産を使っても煮込めば味も食感もほとんど変わりません。○○産と押し出せば、割高でもオーダーが増えますからね」

いやはや、あきれるばかりの実態。高価ではあっても、少しでも安全で味のよいものを求めるユーザーの思いを逆手にとってのコストカットとは……。こんなことがどのホテルでも行われているのだろうか。

本誌は帝国ホテルやオークラ、ニューオータニなど、17の東西有名ホテルにメニュー表示に関する緊急アンケートを行った(6ページ表)。おおむね丁寧な答えが返ってきたが、一連の偽装問題への対応などについては温度差もみられた。帝国ホテルは「'08年から食の安全と信頼委員会を立ち上げている」と回答。ニューオータニは「(東京ディズニーリゾートなどで問題が発覚した)'13年6月にメニューに関して内部調査をし、そのときに問題なかったが、今回の報道を受けて再調査し、再度問題ないことを確認した」と回答した。

ホテルオークラ東京やウェスティンホテル東京は無回答。ホテル大阪ベイタワーは「調査完了後に、万が一必要があれば対応する」と答えた。

名門ホテルのおもてなしさえ疑わしい時代、利用者には確かな目が必要だ。

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