「反ファッショ戦争勝利記念祝典」をプーチンにもちかけロシアとの連携をはかる習近平。日ソ中立条約という「歴史カード」の切り札を使い日本もこれに対抗せよ

邦丸: 今日、取り上げるニュースはこれです。

伊藤: 共同通信から。「TPP交渉 パイナップルなどの関税維持へ」。

TPP(環太平洋連携協定)交渉で、日本政府と自民党はパイナップルの関税を維持する方向で検討に入ったことがわかりました。小豆など「雑豆」という項目についても関税撤廃に応じない方針をすでに固めているほか、木造住宅に使われる合板や水産品なども候補として浮上していて、関税維持を目指す農産品の項目数が、これまでのコメなどの重要な5つの項目から二倍程度に増える可能性も出てきました。

政府・自民党はコメや麦など農産物の重要な5つの項目を構成する586品目に関し、加工品などから関税撤廃に応じてもよい品目を選び出す作業を行っています。その代わりに、重要な5つの項目以外で地域の産業に影響の大きい品目を選んで関税の維持を目指す項目として追加し、実現を求めていく構えです。ただ、今後本格化する関税協議では、高い自由化率の提示が必要だという見方もあり、今後、どの程度品目を絞り込めるかが焦点になります。

邦丸: このTPP(環太平洋連携協定)交渉で、以前から佐藤さんが指摘していたのは、沖縄のサトウキビを守るということが日本の安全保障にもつながるということでした。今回、5項目にサトウもはいっているなかで、さらに「パイナップル」「小豆などの雑豆」は関税の撤廃に応じないということです。これはどういうことでしょうか。

佐藤: 非常にいいことだと思います。パイナップルに関しては、明らかに沖縄を念頭に置いていますね。率直に言って、フィリピンや台湾のパイナップルと比べて沖縄のパイナップルってそんなに差があるわけじゃないんですよ。だから関税を撤廃してアメリカのパイナップルも含めて日本に入るようになっちゃうと、沖縄産が壊滅的な打撃を受けちゃうわけですね。

それをストップするというのは、沖縄の特殊性を考えて、沖縄に人が住めるようにするには産業をつくらなくてはいけない。パイナップルは台風に強いですから、沖縄の産業として適しているわけです。経済合理性以外のところでの安全保障を考えても、非常に合理的な発想だと思います。

それから小豆に関しては、念頭に置いているのは北海道、特に十勝が中心になります。ただ、単に保護するということではないんですよ。北海道の小豆というのは競争力があるんです。べつにアメリカ人はそんなに小豆を食べるわけではないですから、日本が保護することによる影響は受けない。ここできちんと競争力をつけて、和菓子などに使えるきちんとした小豆をつくる。

中国や韓国にも輸出していきますから、将来きちんと育っていかなければいけないようなものを保護するということで、政府も自民党もこの辺はバランスのとれた感覚を持っているなと思います。

基本は、自由貿易から逃げてはいけないんです。競争というのはわれわれを強くしますからね。ところがこの分野、それから安全保障の問題、あるいはここは今、少しサポートしたほうがあとあと力がつくというところはピンポイントで保護的な方法を採るべきだと思うんですよね。

邦丸: サトウキビ、これは沖縄本島というより沖縄の各諸島で栽培をやっている。海外から安いサトウが入ってきて、サトウキビ栽培がダメになることによって、そこに住んでいる人たちが食べていけない。そうなると島を離れることになる。

これは最終的には尖閣問題につながっていくという話のなかで、中国の習近平(国家主席)さんとロシアのプーチン大統領が先日、バリ島でAPECで会ったときに、習近平さんがプーチンさんに「プーチンさん、第二次世界大戦でファシズムと闘ってわれわれが勝利して70年が経ちました。お互いにそれを祝いましょうよ」と言ったという。それがなんとロシアの大統領府のホームページに出ているということで、中国とロシアの連携が見られるようになった。それについて佐藤さんは、おいおい、これはちょっと気をつけたほうがいいよと。

佐藤: 気をつけないと危ないです。2015年、つまり再来年がその70周年に当たるわけですね。それを睨んで習近平さんがプーチンさんに、「そろそろ両国の政府で反ファッショ戦争の準備をしよう」と言った。

これはどういうことかというと、中国の狙いは日本を標的にして、「尖閣諸島は日本が侵略したものなんだ。第二次世界大戦の結果、日本がファシストとしての自己を真摯に反省するならば、尖閣ぐらい中国に渡して当然じゃないか」という国際世論をつくりたいわけですよ。

何度もこの番組で申し上げましたけれど、ロシアとの関係においては、あの戦争においては日本が侵略された側ですよね。ところが、反ファッショ戦争に勝利した民主主義陣営だったという線を引くと、たとえ日ソ中立条約があったとしてもそれよりもっと日本が悪いから、あんな条約は破って当然なんだという理屈になるんですよ。そこに今、中国はロシアを引きずり込もうとしているんですね。

これにプーチンさんがどう反応したかということは、ロシアの大統領府のホームページには出ていないんですけれど、もしそこでプーチンさんが本当にやる気があるんだったら、それはすぐに反応したはずです。それが出ていないということは、ロシアは中国とちょっと距離を置いているということですね。ですからここをうまく使って、中ロを分断しなければいけないんですけれど、それを日本の外務省がやれるのかっていうことです。

邦丸: うーむ。安倍(晋三首相)さんとプーチンさんは、この短い期間に4回も会っていますね。

佐藤: 4回も会っているんですから、関係はいいんです。問題は、安倍-プーチン間ではいろいろやろうとするんですけれど、その流れに両方の外務省がついていけないことです。日本の外務省は一生懸命やろうとしているんですよ。ロシアの外務省はものすごく後ろ向き。それは冷静に考えてみると、日ロで何か動くということは、日本は領土が取れるということですよ。2島かもしれないし3島かもしれないし4島全部かもしれない。

邦丸: 北方領土ですね。

佐藤: そうです。ところがロシアからすれば、何かが動くということは領土を渡さなければいけないわけですね。ということは、ロシアは国内的には「ロシア外務省は何をやっているんだ」と非難される。だからロシア外務省の本音を言うと、何もしたくないわけですよ。

しかも、今のロシア外務省で北方領土を交渉しているモルグロフ次官は中国専門家なんですよ。中国にはいろいろな人脈を持っている人なんです。中国語もペラペラですしね。そうすると、習近平が言ってきた今回の話というのは、ロシア外務省の人たちにとっては魅力があるんですね。反ファッショという形で強く国際世論をつくれば、日本の言うことを聞かないで済むという思惑がある。だから日本にとっては非常に面倒臭いんですよ。

邦丸: 佐藤さんのご著書にありますが、それぞれの外務省には米英語だったらアメリカ・スクール、中国語だったらチャイナ・スクール、ロシア語だったらロシア・スクールというように、外務省員それぞれの畑というのが決められてくる。

佐藤: それで、やはり得意なところで勝負したいんですよ。ですから、モルグロフさんは中国の専門家ですから中国との関係で勝負したいんですよね。その辺のところの風穴を開けることができるかどうかというのが、日本の外務省の課題なんです。

邦丸: 中国の習近平体制からすると当然、モルグロフさんがチャイナ・スクールで外務省のトップにいるわけですから・・・・・・。

佐藤: すぐに味方にしちゃえと。

邦丸: なるほど。それに対して日本外務省はどうするか。

佐藤: それに関しては、向こうが歴史カードを切ったときは、こっちも歴史カードを切ればいいんですよ。日ソ中立条約というものがあったんですね。これはどういうものかというと、日本はドイツの同盟国で、一方のソ連は当時イギリス、アメリカと同盟関係を持っている。同盟関係というのは、戦争が起きたときには自分たちの仲間に加わって戦争をするということなんです。

ところがソ連と日本に関しては、お互いが戦争をしないでおきましょうということを決めた。そして1941年に独ソ戦が始まるわけです。ヒットラーは日本に「戦争に参加してシベリアからソ連を撃ってくれ」と言うわけです。

邦丸: 要するに、西から東から挟み撃ちにしようとした。

佐藤: ところが、日本はそれをきかずに、やはり約束は守らなくてはいけないということで、日ソ中立条約を守ったわけですよ。あのときもし日本が攻め入っていれば、モスクワも落ちていたし、スターリングラードもレニングラードも落ちていたでしょう。ソ連は大変な窮地に陥っていた。それを、日本は約束を守ることによって助けてやったわけですよね。そこを強調すればいいと思う。

「ああ、そちらは反ファッショ戦争に勝利したというんですか。わかりました。ところで、ドイツに対する勝利でいちばん貢献したのは日本じゃないですか」と、こういう議論をしたほうがいいですね。