地域のつながりで循環する「腐る経済」へ
~岡山県の過疎の町、「田舎のパン屋」が起こす「静かな革命」~

「パン屋タルマーリー」のみなさん〔PHOTO:片岡杏子〕

「自然界のあらゆるものは腐るのに、この世でお金だけが腐らない」

モモ』で知られるドイツのファンタジー作家ミヒャエル・エンデは、『エンデの遺言』(NHK出版)の中で、そう語り、現代の金融システムが引き起こす弊害に警鐘を鳴らした。

お金だけが、あらゆるものがいずれは「腐る」自然界の摂理から外れている。いつまでも減らないばかりか、利潤や利子でどこまでも膨らんでいく。そのおかしさが、環境問題や経済恐慌など、資本主義の負の側面を引き起こしているのではないか---と。

そして、「腐らないお金」が支配するマネー資本主義の矛盾を克服する手段として、エンデは「地域通貨」に注目した。「地域通貨」とは、「腐らないお金」と切り離された、その地域でしか使えない独自の通貨のこと。それによって地域の経済循環をつくり出し、地域の力で地域を豊かにすることが「地域通貨」の理念だ。

田舎で「正しく高く」パンを売る

その「地域通貨」の理念をパンで実現できないものか---と、挑むパン屋がいる。

パン屋タルマーリー」。

店主で職人の渡邉格(イタル)さんと、女将の麻里子さんの夫婦が、岡山県の山間の町・真庭市勝山で営む「田舎のパン屋」だ。

タルマーリーは、「つくればつくるほど、売れば売るほど、地域が豊かになるパン」を目指している。つまり、タルマーリーがつくるのは、ただのパンではなく、「地域通貨のようなパン」なのだ。

タルマーリーのパンたち〔PHOTO:中川正子〕

タルマーリーは、2008年に千葉県いすみ市で店を開いたが、東日本大震災と福島の原発事故を機に移転。2012年2月に勝山で再スタートを切った。今年9月末には、夫婦がパンづくりに込める思いを、店主のイタルさんの半生を振り返る物語の形での本にまとめて世に送り出した。『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』(渡邉格著、講談社)という本だ。

勝山の人口は8,000人弱、10年以上も毎年100人ほど減り続けている過疎の町だ。そこに店を開くことからして、経営の「常識」からかけ離れているが、タルマーリーの経営のあり方はさらにその上を行く。地域の生産者がつくった素材を「正しく高く」仕入れ、職人の技術を乗せて「正しく高く」売る。

パンの単価は平均してざっと400円。

このタルマーリーのパンは、勝山に住む人たちだけでなく、幅広く受け入れられている。

創業1804(文化元)年、勝山で200年を超える歴史を持つ酒蔵「辻本店」で杜氏を務める辻麻衣子さんは、「タルマーリーがこの町に来て、人の流れが変わった」と言う。

勝山は、江戸時代を思わせる白壁と格子窓の町家が並ぶ歴史情緒豊かな町。クルマで20分も行けば「湯原温泉郷」で知られる源泉かけ流しの天然温泉があり、年配の人たちが観光で立ち寄る場所だった。

それが、タルマーリーが勝山に来て以来、休みの日にはタルマーリー目当ての若者たちが町を訪れるようになった。卸売や通販でも全国から注文が舞い込む。とくに本の出版後は、「本を読んだらパンを食べたくなった」人が急増し、通販を一時ストップするほどの人気ぶりだ。

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