人権を理解しない中国と憲法を理解しない国会議員
〔PHOTO〕gettyimages

10月28日に北京の天安門前で車が突入し炎上した事件は、中国共産党の指導部を震撼させた。新疆ウイグル族の容疑者が逮捕され、中国政府はテロ事件として非難したが、問題の根は深い。

多元的民主主義への要求を無視し続けられるか

今の中国は、様々な問題を抱えている。第一に、経済格差の拡大である。富裕層と貧困層の二極分化が起こっており、それは都市と農村という地域対立にもつながっている。経済発展の恩恵にあずかれない人々の不満は高まっている。

第二に、役人の腐敗である。賄賂の横行は目に余る。習近平国家主席が腐敗との戦いを優先政策に掲げているのは、この問題がいかに根深いかを示している。しかしながら、官僚の腐敗は、いわば中国の歴史的伝統と言ってもよい。科挙に家族で全精力をつぎ込むのも、いったん合格して高級官僚への道が開ければ、一族郎党が栄えるからである。これは、清朝時代も共産党支配下の現在も全く変わらない。

第三は、少数民族問題である。中国には、人口の92%を占める漢族の他、チベット族、ウイグル族、チワン族など55の少数民族がいる。彼らは、チベット、新疆ウイグルなど5つの自治区あるいは自治州に住んでいるが、みな漢族によって支配され、経済的にも困窮した状況に置かれている。さらには、基本的人権も漢族以上に制限されている。

そのため、中国からの分離独立を目指す運動が活発になる。それが、警察署を襲うなどの暴動と化し、流血の惨事が繰り返され、それに対して治安当局がさらに締めつけを強化する、という悪循環が起こっている。抑圧政策から融和・同化政策へと方向転換を図るのも一つの選択肢であるが、政府指導部内での権力闘争も絡んで、容易に実現できるとは思えない。

第四に、食の安全をはじめとした良好な生活環境が保持できないという問題である。私も中国を訪れてPM2.5の凄まじさには驚かされたが、大気汚染をはじめ環境問題の深刻さに、中国政府も重い腰をあげざるをえなくなっている。また、農薬による野菜の汚染、工場からの汚染水による河川や土壌の汚染、食品加工プロセスの安全管理の不備などによって、様々な健康被害が発生している。経済発展の負の副産物である。

以上のような問題に、習近平体制が正面から取組み、成果をあげることができるのかどうか。北京では、11月9日~12日、中国共産党中央委員会第三回全体会議(3中全会)が開かれる。党主導による改革を「全面的に深化させる」ための会議であるが、所期の目的を遂げることができるのか否か、天安門車突入事件が暗い影を投げかけている。

今回の事件には、上記のような問題がすべて絡まっており、経済成長路線の継続のみでは、もはや中国社会の安定を保つことができない、という現状を反映している。

人々は豊かになって、明日の食事を心配する必要がなくなると、言論の自由など基本的人権の確保を目指すようになる。政治的には、それは独裁に反対し、複数の政党が自由に競争する多元的民主主義への要求となる。中国共産党は、そのような要求に耳を貸す気は毛頭無いだろうが、その姿勢をいつまでも貫いていくことが可能なのであろうか。

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