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「汚染水問題」に集中すべきなのに…… 東京電力「超優良120億円資産」競売に重大なトラブル
東京電力の廣瀬直己社長は、本誌の取材に「聞いていません」とだけ答えた。なぜ入札を隠蔽するのか〔PHOTO〕岡内正敏

台風26号の豪雨で、福島第一原発は汚染水のダムと化した。漏水防止用の堰から放射能を含んだ雨水が溢れ出し、海へと流れ込んだ。現場作業員は言う。

「東電の想定が、甘すぎた。30~40mm程度の雨量と見込んでいたようだが、実際には100mm以上の雨が降って、あっという間に溢れ出した。東電の汚染水対策は、施設も人手も常に後手後手です」

東京電力はメガバンク3行、地銀、原子力損害賠償支援機構から合計約6兆円もの巨額融資、出資を受け、汚染水対策など原発事故の処理に当たっている。とにかくカネが足りないのだ。

東京電力自身も、次々に資産を切り売りしているが、焼け石に水。大きなものでは東京・杉並区内のグラウンドを60億円で杉並区に、銀座支社本館の土地建物を235億円で読売新聞グループ本社などに、北千住のグラウンド・家族寮跡地を帝京科学大学に数十億円で売却した。

「社宅、発電所跡地、関連会社社屋など、9月までに合計2480億円の不動産を売却しましたが、今後もまだまだ資産を切り売りしていく必要があります。しかし、めぼしい資産はほぼ売ってしまって、残る数少ない『超優良資産』のひとつが、東京電力病院なんです」(東電関係者)

2020年東京オリンピックのメイン会場となる国立競技場からほど近い東京・信濃町に建つ、敷地面積5609m2(約1700坪)の地上7階、地下2階の総合病院。昨年の東京電力の株主総会では、猪瀬直樹・東京都副知事(当時)が質問に立ち、

「東電の資産売却リストに、東電病院が載っていない!東京都の試算では、資産価値は120億円以上だ。売却して、株主に還元すべきでしょう。しかも、病院は東電社員とOB専用で、113ある病床のうち現在使われているのはたった20床。こんな病院は売却するのが当たり前だ!」

と主張した。東電病院は都心の一等地にありながら東電関係者以外受け入れない閉鎖性が指摘されており、いわば、東電の「特権体質」の象徴だった。

批判に背中を押されるように昨年10月1日ようやくプレスリリースを発表し、

〈東京電力病院のあり方についても検討してまいりましたが、このたび、同病院を売却することといたしました。平成24年度中に原則として競争入札を実施し、平成25年度以降に売却する方向で、今後、速やかに手続きを進めてまいります〉

と宣言したものの、その後具体的な発表は一切なかった。東京電力が公開する「売却不動産リスト」(売却済、売却予定)にも、いまだに東電病院は掲載されていない。

東電の思惑

しかし、本誌の取材でこの夏ひそかに東電病院売却の競争入札が行われていたことが分かった。しかもその入札結果は、東電のある「思惑」によって公表されず、再入札さえ検討されているというのである。ある不動産会社幹部が明かす。

「入札が行われたのは、今年8月です。合計11の会社、法人が名乗りをあげたと聞いています。最終的に3者に絞られ、競争入札が行われた。

その結果、1位は不動産デベロッパーの東京建物。2位は、医療法人の徳洲会。3位が、同じ信濃町にある慶応大学病院だった。1位の東京建物と、3位の慶応病院では入札価格に倍の開きがあったそうです。東京建物の〝圧勝〟だった」

東京建物の入札価格は、猪瀬氏が指摘した120億円にきわめて近い金額だったという。入札で2位になった徳洲会の広報担当者はこう話す。

「東電病院の入札ですか?ウチは途中で降りました。そこは別に隠さないですけど。今回ご存じのような事態(公選法違反容疑で東京地検特捜部の強制捜査)で、理事長の交代もあり、事前にこちらのほうからお詫びして入札の途中で辞退したんです。入札で、札は入れましたが、10月中旬の決定の前にこちらから降りました。応札価格はノーコメントです」

残ったのは、東京建物と、慶応病院。

前述の通り、東京電力は1円でも高く資産を売って、除染や汚染水対策費用を稼がなければいけない立場だ。入札額に2倍もの差がある以上、東京建物に売却する以外の選択肢はないはずだ。

ところが、なぜか東電は売却をためらい、いまだに入札結果の公表もない。その事情を、東電の内部事情に詳しいメガバンク幹部はこう話す。

東京・信濃町に建つ東京電力病院は、周辺を創価学会関連施設と、慶応大学病院、慶大医学部に囲まれている

「東電は、ホンネでは慶応病院に売りたいんです。東京建物に売ってマンション用地に転用された場合、現在在籍する100人以上の医師をリストラしなければならなくなりますが、慶応病院に引き取ってもらえばその問題も起こらない。東電病院は慶大医学部出身の医師が多く『慶応義塾大学関連病院会』という組織にも名を連ねているほど親密ですし、東電社員への優遇が続く可能性もある。しかし、入札額にこれだけ差があるのに慶応に売れば、東電の経営陣は会社に損をさせたとして株主代表訴訟の対象となる可能性さえあり、頭を悩ませているのです」

東電関係者は別の内部事情も明かす。

「東電がいまだに正式な売買契約を締結しないのは、東京建物が具体的な開発計画を示さないことを理由にしている。東電の幹部のなかには、時間をおいて創価学会に高値で転売されるのではないかと疑う声があります。その確証がとれないというんです」

1ページの地図で明らかなように、東電病院周辺は創価学会の「城下町」。学会は11月18日に新・総本部落成式を控えるなど、信濃町でますます存在感を高めている。東京建物広報IR室は、「個別の案件に関してはコメントを差し控えさせていただきます」とのみ回答した。東京電力総務部広報グループは、

「競争入札による売却手続きを進めているところではありますが、詳細については相手先様のあることでもあり、今後の売却への影響等も考慮し回答は差し控えさせていただきたい。入札時期などについてもお答えできません」

とすでに入札を行ったことを認めながらも、言葉を濁す。

東電には「自前の病院だけは残したい」という思いがあるのかもしれないが、問題は、ここまでのプロセスを一切隠蔽したまま進めていることだ。

電気料金を値上げし、税金から多額の支援を受けている以上、公明正大に資産売却を進めるのは最低限の義務だろう。

「フライデー」2013年11月8日号より

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