ドイツ
メルケル首相の盗聴事件に政治家も驚愕&憤慨!? ~アメリカパワーの減退を愛憎半ばで見つめるEU諸国の冷ややかな視線
〔PHOTO〕gettyimages

ここ一週間ほど、ニュースといえば、メルケル首相のケータイ盗聴問題ばかりだ。これも、言うまでもなく、元CIA職員スノーデンの持ち出したNSA(米国安全保障局)の機密資料から出てきたものだ。

それについてドイツの政治家が、「友人同士での盗聴は許されない!」と、驚きと怒りの入り混じったようなコメントばかり出すのが腑に落ちない。「失われた信頼関係をどうにかして取り戻さなくてはいけない」のだそうだが、誰か本気でそう思っているのだろうか。アメリカ人は友人であり、絶対的に信頼していた? そんなはずないでしょう!

しかし、目下のところ、ドイツの報道はすべて、「驚愕」「憤慨」というスタンスで作られている。ニュースでは、メルケル首相とオバマ大統領がハグしたり、仲良く歓談している過去の映像がふんだんに使われ、「ほら、メルケル首相はこんなにオバマ大統領を信じていたのに、盗聴されていたのですよ、酷いでしょう!」という誘導が顕著だ。ドイツ人はこれを見て、「二枚舌のアメリカ人に騙された!」と憤慨するのだろうか。

あるベテランの元外交官に尋ねてみたら、「アメリカは昔から友好国でも平気で盗聴(暗号なら解読)する国でした。それはドイツの政治家だって知っているはずです。でも、今回はスノーデンのリークで暴露された以上、怒らないと対内的にも格好がつかない。キツネとタヌキのようなものでしょう」とのことだった。それなら納得できる。

ベルリンのアメリカ大使館が盗聴の本拠地!?

メルケル首相の盗聴は、すでに2002年に始まっていたとか。2002年といえば、SPDが政権を握っており、首相はシュレーダー氏で、メルケル氏はまだ首相ではなかった。先週、メルケル首相がオバマ大統領に電話をしたところ、「ケータイ盗聴は一切知らなかった。知っていたら、すぐに止めさせた」と言ったそうだが、情報機関は大統領のかけがえのない武器だ。CIAのしていることを大統領が知らなかったというのは、絶対におかしい。

結局、メルケルの盗聴は今年の夏まで続いていたという。アメリカとドイツの信頼関係は、この予測もしなかった裏切りによって失われかけており、今までで最大の外交危機を招いているとか。ドイツの外務大臣は、すでにアメリカ大使を呼びつけて抗議をしている。天下の駐独アメリカ大使にしてみれば、ひどい屈辱であったに違いない。

そういえば2年ほど前、IT関係の仕事をしているドイツ人の知り合いが、メルケル首相のケータイ電話を作っていると言っていたことを思い出したので、電話をしてみた。

「私、書くかもしれないから、ダメなことはしゃべらなくてもいいわよ」と言うと、「全然問題なし。あのケータイはすでに市販されている。僕たちはメルケル・フォンと呼んでいるよ」ということだった。

メルケル・フォンは、高度なセキュリティーを要する人のための特別なケータイだが、操作の途中に16ケタの数字を入力しなければいけなかったり、写真を見られなかったり、扱いは面倒らしい。メルケル首相がこのケータイを実際に使っているかどうかは、もちろんわからない。なお、国家機密に関する重要な通話については、厳重なセキュリティーが施された官邸内の特別な回線がある。

今週発売のニュース週刊誌シュピーゲルも、タイトル記事はこの事件だ。シュピーゲル誌は、取材力ではおそらくドイツ一だが、特にスノーデンの米国脱出以来、NSAスキャンダルの追求には、執拗なほどのエネルギーを投入している。

今では、NSAがワシントンとニューヨークにあるEU代表部をスパイしていたこと、また、同盟国であるEUの国々、特にドイツ政府の情報を念入りにスパイしていたばかりでなく、一般国民のスマートフォンやケータイのデータも大々的に収集していたということが明らかになっているが、これらを告発したのもシュピーゲルだ。

NSAが1ヵ月で保存している個人データは、ドイツの物だけで5億個というから確かにすごい。こうなると、すべてテロ防止のためという理由づけには、もちろん無理がある。

同誌は、今週号で次のように書く。

〈 アメリカは、ベルリンのアメリカ大使館を盗聴の本拠地にして、大々的なスパイ活動に励んでいた。大使館の屋根の上には、超高性能のアンテナが隠されている 〉

これが事実なら、もちろんすべて条約違反だ。これを受けて内務大臣は、犯人は外交特権を享受していると思われるから、見つけ次第、国外に追放すると言っている。

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