トヨタ、シャープに見る
日本企業が低迷する理由

「セレンディピティ」から生まれるヒット商品

 最近、トヨタ自動車とシャープが「報道規制」を強めている。両社ともに役員への夜討ち取材は禁止だ。その代わり頻繁に「記者懇談会」を開き、ガス抜きをする。

 トヨタの場合は、創業家出身の豊田章男社長が「夜回り」を受けない。トップが応じないため、他の役員はしゃべることができない、というのがその理由だ。

 夜回り禁止の代わりに、「談話室」と呼ばれる自社の記者室で、役員の記者懇談会を頻繁に開く。呼ばれるのは、記者クラブに属している記者だが、それは建前で、大手の有力雑誌の記者は参加できる。ただし、フリー記者は参加できない。

 オフレコとオンレコの両方の場合がある。オンレコの場合、トヨタは「名古屋市で記者団に語ったと書かないで下さい。場所を入れないで下さい」などと細かい制約をつける。

 東京のメディアを呼んでいないためだが、それに反発した記者が皮肉で「愛知県内で」と書いたことがある。リコール問題で、豊田社長が米下院の公聴会に出席すると正式に公表したのも、この「談話室」の記者を集めた懇談会に近い場だった。

 筆者は全国紙の記者として、はじめてトヨタを担当したのは約15年前のことだ。

  本社がある豊田市に住んで密着取材したこともある。トヨタの良い点は議論好きでざっくばらんに話せるところにあった。意外なイメージかもしれないが、夜討ち取材も歓迎で、役員の中には、玄関先に記者応接セットを置いている人もいた。世間の見方を経営の参考にしようという思いがあったからであろう。

 フリーに転じてからも取材を申し込むと、気さくに取材に応じてくれた。批判記事でも真摯に受け止めてくれる風土があった。しかし最近は一部の役員の間で批判的な記者をリストアップし、その素性を調べようといったことまで真顔で議論しているというから空いた口が塞がらない。かつてトヨタは明るい会社だったのに、いまは寛容さがなくなり、暗い会社になってしまった。

夜回り取材が禁止になったシャープ

 シャープも同様だ。非常識な時間に経営トップの自宅を訪問した記者がいたことが夜回り取材禁止のきっかけとなったが、本当の理由は社内の権力闘争にある。「片山幹雄社長よりも広報担当副社長のほうが年上で、社長を押さえ込んで情報管理を一元化しようとしている」(関係者)と見られている。

 その広報担当副社長は毎週一回、オフレコの記者懇談会を開く。そこでマスコミが何に関心を持っているかを把握する。しかし、こうした情報がしっかりと社長にはあがっていないのだという。「片山社長はマスコミの取材に応じたいのが本音でしょう。しかし、それができないのです」(同)という。

 トヨタ、シャープともに日本の製造業の強さを代表する企業だったが、最近はともに業績が芳しくない。ヒット商品もない。内向きの理屈で社内が動いていることも影響しているのではないか。両社とも「報道規制」だけではなく、社内からも言論の自由が消えている模様だ。

 シャープの関係者は「上司が間違ったことをやっても誰も意見具申しない。物言えば唇寒しといった風土での中で良い製品ができるわけがない」と話す。最近、トヨタを辞めたOBも「正論を言う人間が排除される」と指摘する。

 社内から闊達さや自由度が失われると、どんな企業でも衰退する。筆者も朝日新聞の記者時代に経験がある。1990年代後半から「アルバイト原稿禁止」「企業の批判記事は駄目」といったような指示が出始めた。記者のサラリーマン化が急速に進み、世渡りは下手だが、取材先に食い込んで面白い記事を書く記者が減った。

 その結果、紙面に勢いがなくなった。最近、朝日新聞の編集幹部が「デスクに逆らう記者求める」といった全員メールを出しており、「締め付け策」が逆に行き詰ってきたのかなとも感じる。

 日本のメーカーから爆発的なヒット商品が出にくくなっている。消費者の価値観の多様化、デフレ経済の進展など様々な要因が絡んでいると思う。市場動向を分析しすぎるあまり、生産者側が自分たちの技術に自信をもちながら「こんなおもしろいモノができた」というような商品が減ったことも影響しているのではないだろうか。

 造っている人が社内調整やコストばかりを意識して、面白がっていないようでは消費者にとっても、わくわくする商品とは言えないのではないか。

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