ハード・ノンフィクションの巨匠、溝口敦著 『溶けていく暴力団』
第三章「飛んでる半グレ集団」全文公開!

事件の背景としては真偽不明だが、他に覚せい剤取引をめぐるトラブル、借金による金銭トラブルなどが取り沙汰されている。が、関東連合はこの日以降、K兄弟への報復を誓い、K兄弟を探し続ける。

機械で得られる情報で十分

一二年九月二日、午前三時四〇分ごろ、港区六本木ロアビル二階のクラブ「フラワー」で渋谷の焼き肉店経営者、藤本亮介さん(事件時三一歳、中野区在住)が仲間と談笑中、目出し帽をかぶった一〇人ほどの男たちが金属バットなどを持って店に乱入、藤本さんを袋叩きにして殺す事件が発生した。

男たちは一~二分藤本さんを無言のまま執拗に殴った後、ロアビル近くに駐めたワゴン車二台に分乗して東京・東大和方面に逃走した。

警視庁は同月七日、襲撃グループをとらえた防犯カメラの映像を公開した。画像は人物を特定できるほど鮮明だったから、事件に関係したものは早々に逮捕されると思われたが、意外にも長期間を要した。

同年一二月、関東連合メンバー二人が捜査本部に出頭した。捜査本部は詐欺罪などで逮捕していた関東連合メンバー石元太一容疑者の供述と併せ、二人から事情聴取し、凶器準備集合容疑で一七人の逮捕状を取った。

警視庁は一三年一月二一日までに関東連合メンバーと関係者計一八人を逮捕した。あとは海外逃亡している見立真一容疑者を残すだけとなったが、今後は殺人容疑での立件を目指すとしていた。

逮捕と前後して事件の概要が分かってきた。藤本さんは関東連合側の人違いにより殺されたとほぼ確定した。事件の構図は唖然とするほど単純で、関東連合暴力派の行動原理がまだ暴走族レベルの「やられたらやり返す」に留まっていることを示していた。

K兄弟の弟とたまたま外見が似ていたため、藤本さんは殺された。クラブの店員がK兄弟の弟と藤本さんを見まちがえ、石元太一容疑者に電話し、石元容疑者が見立容疑者にその旨報告したことで、人違い集団殺害事件が引き起こされたのだ。

フラワー事件の捜査本部は麻布署に置かれた。警視庁は捜査一課(暴力団が関係していない殺人、強盗、傷害、放火などを担当)を主体に、ごく一部だけ組織犯罪対策三課、四課(暴力団を担当)から要員を投入した。

警視庁詰め記者の解説によれば、

「捜査一課と組対三、四課は関係が悪い。組対に情報が寄せられたところで、組対は捜査一課に情報を渡すかどうか。

捜査一課の方でも、『暴力団とつき合って得られるような情報はもう要らない。防犯カメラや幹線道路沿いのNシステム(車ナンバー自動読み取り装置)など、機械的に得られる情報だけで十分』と考えている」

「準暴力団」

捜査本部発足時点から警視庁部課制の縄張り根性がネックになったが、むしろ問題は実行犯逮捕後に明確化すると、同記者は指摘した。

「九人が被害者を取り巻き、折り重なるようにして鉄パイプ状のもので殴った。そういう状態だから、致命傷を与えた者が誰か、特定が難しい。まして凶器となったのが棒だから、殺人には問えず、傷害致死の可能性が高い。となると、刑は五~六年といったところ。

まして実行犯は暴力団の組員ではないだろうから、暴力団対策法や暴排条例の対象外。執行猶予がつく実行犯だっているかもしれない」

事実、東京地検は殺意の立証が困難として、逮捕者のうち三人を処分保留で釈放した。また六人を凶器準備集合罪で、九人を傷害致死罪で起訴した。見立容疑者だけが今後、ことによると殺人罪で起訴される可能性はあるが、これまでのところ殺人罪での起訴は一件もない。半グレ集団の刑期は組員に比べ圧倒的に有利な上、警察は半グレ集団の犯歴データさえ蓄積していなかった。

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