読書人の雑誌『本』
『読解力を強くする算数練習帳』著:佐藤恒雄
「数学とは、何のために勉強するんだ」と悩んでいる人へ

一二年前に大学を退官した私は、数学教育に強い関心をもっておりましたので、与えられた自由な時間を有効活用しようと自宅に数学道場を開き、近所の中高生を集めて、わかりやすさを眼目にして数学の実践指導をしております。もちろんその子どもたちはまじめに勉強し、休むこともせずに目標をもって学習を続けています。

教えているうちに気づいたことがあります。それは、数学の問題文を読んでその題意が理解できない子どもが目立って増えた、ということです。「問題文を読んで題意が理解できない」といっても、いろいろなタイプがあります。

1. 語彙力が不足していて文節と文節のつながりがわからない。
2. 数学特有の言葉、つまり記号や用語の定義が理解できていない。
3. 文章と文章のつながりがわからず、条件がつかめない(演繹的な推論による文法の知識がない)。
4. 文章が長くなると全体像がつかめなくなり、題意の目標が捉えられない(論理的な読解力の不足)。

このような現象は、以前からあったことですが、最近よく耳にするようになりました。というのも、三年に一度行われる学力テストの国際調査の結果が新聞で大きく報道されるようになったからです。「科学立国ニッポンの学ぶ力が大きく落ち込んでいる」という見出しつきで。

これは、経済協力開発機構(略称OECD)が発表した国際学習到達度調査(略称PISA)の一コマです。科学と数学の「応用力」を試す分野でも、一五歳の日本人の子どもの学力が世界のトップレベルの座から転落したことが報告されています。科学は二位から六位に、数学は六位から一〇位に、そして読解力は一四位から一五位に、と転落に歯止めがかかりません。

じつは一〇年以上前から、その兆候がすでに現れていたのです。二〇〇〇年、日本の一五歳の数学的リテラシーは一位であったにもかかわらず、「読解力」は八位でした。そして、三年後の〇三年には一四位、さらに三年後の〇六年には一五位とズルズルと低下していったのです。

理由の一つに、ゆとり教育が導入されたことがあります。これは押しつけの勉強を排し、無理強いはしないのが鉄則です。それに加えて、本や新聞を読まなくなったことが拍車を掛けます。これに危機感をもった文科省が方向を大きく変えゆとり教育から脱却をはかり、〇九年には上向いて八位になります。しかし後遺症はすぐには消えません。

この読解力の低下は、ボディブローのように基礎学力にダメージを与え、それが数学・科学の理解力を衰えさせ、ひいては数学・科学のリテラシーの低落に結びついていったのです。つまり、この読解力は数学や科学を勉強する上で不可欠な学力なのです。なぜなら、科学や数学は、やはり言葉を通して習得する学問だからです。

 
◆内容紹介
「数学とは、何のために勉強するのか」と、考えた時期がだれしも一度くらいあるはずです。数学の勉強を続けていくと、数学が自分のうちに論理的思考を育ててくれるものである、とあるときわかる人と、一方、何てつまらないことを勉強するんだ、こんなもの何の役に立つのかと、ずっと疑問を抱いたまま数学を卒業してしまった人と、2つのタイプに分かれるといいます。もう一度、「数学がいった何の役にたつのか」いっしょに考えてみませんか。