佐藤優の読書ノート 千野栄一著:『外国語上達法』

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol022 読書ノートより

千野栄一『外国語上達法』岩波新書 1986年

『外国語上達法』
著:千野栄一
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大人になってからの外国語習得には、「定石」がある。本書はこの「定石」について記した古典的名著だ。結論を先に述べると、外国語習得のために必要とされるのは、

「お金と時間」 勉強法の要諦は、「語彙と文法」

を暗記することだ。

「お金と時間」について、千野氏はこう述べる。

<こんな神様のような先生なので、折にふれてこの先生から語学上達の秘訣を私が聴きだそうとしたとしても不思議ではないであろう。それに、この先生が狂気の語学の天才ならば、自分たちとは違うカテゴリーの人だととっくの昔にあきらめるが、先生は円満な人格と輝くばかりの教養を備えられた常識人で、才能の違いは重々承知のうえでも、この先生についていけばなんとか自分でもできるようになるという気にさせる魅力を持っておられる方である。そのS先生に伺ったのであるから、外国語上達についてのヒントは読者の方も私と同じように信じていただく以外にはない。

「先生、語学が上達するのに必要なものはなんでしょうか」

「それは二つ、お金と時間」

このラコニア風(laconic)に短い解答に目をパチクリしている私に先生が説明して下さったところによると、語学の上達には、まずお金をかけなければだめであるということであった。先生ご自身もあるロシア夫人に月謝を貢いでロシア語を習得されたそうである。人間はそもそもケチであるので、お金を払うとそれをむだにすまいという気がおこり、その時間がむだにならないようにと予習・復習をするというのである。

外国人に日本語を教え、そのかわりにその外国語を学ぶというのはよく聞くが、そうやって外国語に上達した人に会ったことがないのは、お金を使っていないからであろう。大学のとき第二外国語その他でいくらでもいい先生に習えるのに上達せず、社会に出て仕事のあとお金を払って習いにいくと上達するのは、前に述べた目的意識のはっきりしていることと共に、お金を払うからにほかならない。

先生のおっしゃるには神様は大変公正であって、お金だけあってもだめで、時間も必要だとの話であった。もし、お金だけで語学ができるのであれば、松下幸之助氏など何十という語学を身につけられるはずである。ところがこのような人たちは、会議やら相談などでいそがしくて、人称語尾を繰り返したり、単語を覚えたりする時間はないのである。大学生というのは、本来時間はあるがお金のない人たちであり、社会人というのは、いささかお金はあるが時間のない人たちである。このことからも明白であるように、資本主義というのは時間をお金にかえる制度なのである。>(38~39頁)・・・(以下略)

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・ロンブ・カトー(米原万里訳)『わたしの外国語学習法』ちくま文庫 2000年
・黒田龍之助『語学はやり直せる!』角川oneテーマ21 2008年
・種田輝豊『20ヵ国語ペラペラ』実業之日本社 1973年