佐藤優のインテリジェンス・レポート「サウジアラビアの国連安保理非常任理事国ポスト辞退」、「ロシアとオランダの関係悪化」

佐藤優「インテリジェンスの教室」Vol023 インテリジェンス・レポートより
【はじめに】
英字紙やロシア語の新聞を読んでいると、日本のニュースがかなり「内向き」になっていることを痛感します。特にサウジアラビアが自ら立候補していたにもかかわらず、選出された国連安保理非常任理事国のポストを辞退するというのは、尋常な事態ではありません。
今回の分析メモでは、踏み込みませんでしたが、イランに対する国連の甘い対応と、米国のオバマ政権がイランとの関係正常化に舵を切ろうとしていることにサウジアラビアが不満を募らせているという要因も、サウジアラビアが今回、異常な行動を取った背景にあると私は見ています。それから、オランダとロシアの関係悪化も、国際情勢の不安定要因になると思います。特に外交官の不可侵権が守られないというのは、深刻な事態です。露蘭関係では、近未来にもっと深刻な問題が起きるかもしれません。

【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol023 目次】

―第1部― インテリジェンスレポート
 ■分析メモ No.53 「サウジアラビアの国連安保理非常任理事国ポスト辞退」
 ■分析メモ No.54 「ロシアとオランダの関係悪化」
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート No.69 『外国語上達法』
 ■読書ノート No.70 『レーニン略伝』
 ■読書ノート No.71 『保守とは何だろうか』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 今後のラジオ出演、講演会などの日程
OPCWのwebサイトより

分析メモ No.53「サウジアラビアの国連安保理非常任理事国ポスト辞退」

【事実関係】
10月18日、サウジアラビア外務省は、同17日の国連総会で選出された安保理非常任理事国のポストを辞退するとの声明を発表した。

【コメント】
1.―(1)
国連安保理は、拒否権を持つ5大国(米露英仏中)と地域別のバランス(アジア2、アフリカ3、中南米2、西欧2、東欧1)を考慮した拒否権を持たない10ヵ国の非常任理事国によって構成されている。非常任理事国は2年ごとに5ヵ国ずつ改選される。拒否権を持たない非常任理事国であっても安保理の会議で発言し、影響力を行使することが可能だ。従って、どの国も安保理非常任理事国になりたがるというのが国連の常識だ。サウジアラビアも非常任理事国ポストを得るために精力的なロビー活動を展開していた。

1.―(3)
中東の地域大国であるサウジアラビアは、シリアの反体制派を支援してきた経緯があるので、安保理でシリア問題を積極的に取り上げると見られていた。しかし、翌18日、サウジアラビア外務省が、安保理非常任理事国のポストを辞退するとの声明を発表した。(略)

1.―(4)
(略)サウジアラビアは、国名が「サウード家のアラビア」を意味することからも明らかなように家産国家である。国王の意志によって、対国連政策が変化することは十分ある。同時に、この事件は、国連の権威の低下を物語っている。

2.―(1)
今回のサウジアラビアの対応は、国際管理下でシリアの化学兵器を破棄しようという動きに水を差す。

2.―(2)
10月11日、ノルウエーのノーベル賞委員会は、2013年のノーベル平和賞を「OPCW(化学兵器禁止機関)」に授与すると発表した。1997年に発効した化学兵器禁止条約に基づいて同年OPCWは発足した。この条約は、サリンなど化学兵器の開発、使用を禁止し、現在保有する化学兵器については段階的に全廃することを定めている。(略)

2.―(3)
外交、安全保障、軍事、インテリジェンスの専門家以外には、あまり知られていないOPCWが今回、ノーベル平和賞を受賞したのは、シリア情勢と関係している。8月21日、シリアの首都ダマスカス近郊でサリンが使用された。米政府は、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したと断定し、米軍による限定的なシリアに対する武力攻撃を宣言した。これに対してアサド政権は、サリンを使用したのは反政府軍であると主張。アサド政権の主張に同調するロシアが、米国に国際監視下でシリアの化学兵器を破棄することを提案し、それが実現した。(略)

分析メモ No.54 「ロシアとオランダの関係悪化」

【事実関係】
1.10月5日、ハーグで、在オランダ・露大使館のドミトリイ・ボロジン公使が、児童虐待の容疑でオランダ警察によって一時拘束された。同8日、プーチン大統領はオランダ政府を非難するとともに謝罪を要求した。同9日、オランダ政府は、ロシア外交官の不可侵権を侵害したことについて国際法(ウイーン条約)違反があったことを認め、謝罪した。

2.10月15日、モスクワで、在露・オランダ大使館のオンノ・エルデルンボッシュ次席公使(大使館のナンバー・ツー)が、電気工事を装って自宅を訪れた2人組の男に襲撃された。

【コメント】
1.
ロシアとオランダの関係が急速に悪化している。9月20日、ロシア当局がバレンツ海で建設中の海底油田基地に無断侵入したオランダに本部を置く国際環境保護団体「グリーンピース」の活動家28人とジャーナリスト2人を海賊行為の容疑で逮捕した。オランダ世論はロシアの強硬な対応に反発し、オランダ政府も被逮捕者の人権に関心を表明した。ロシアはオランダのこのような態度に反発を強めた。

2.―(2)
10月9日、オランダ政府は、ロシアの抗議を受け入れ、謝罪した。(略)オランダ外務省声明の意味は、「ボロジン公使が児童に対して犯罪行為を行ったというオランダ警察の情報をわれわれは信じている。ただし、ウィーン条約で身体、住居の不可侵が保障されている外交官を拘束したことについては国際法違反なので、謝る」ということだ。ロシア外交官が破廉恥な犯罪を行ったというオランダ側の認識を強く打ち出している。ロシアは、この謝罪によってオランダに侮辱されているという思いを一層強くした。

3.―(1)
10月15日夜、<モスクワ中心部にあるオランダの外交官(60)宅に2人組の男が電気工事の修理を装って侵入し、外交官を殴って逃走した。インタファクス通信が伝えた。オランダのティメルマンス外相は16日、声明で露政府に外交官の安全確保を要請した。/オランダでは今月初旬、警官がロシアの外交官を誤って拘束して連行する騒ぎがあり、プーチン大統領の謝罪要求にオランダ政府が応じた直後のことだった。/モスクワで殴られたオランダの外交官に大きなけがはなかったが、犯人は外交官宅の壁に、同性愛者ら性的少数者をさす「LGBT」の文字を描いて逃走したとみられている(略)>

3.―(2)
襲撃された外交官は、オンノ・エルデルンボッシュ次席公使(大使館のナンバー・ツー)だ。このモスクワでのオランダ外交官襲撃事件には、「プロの手口」を感じる。ロシアの秘密警察(FSB[連邦保安庁])は、モスクワに勤務する外交官の活動に不満がある場合、段階的に警告を与える。(略)