「講座: ビジネスに役立つ世界経済」
【第22回】 債務上限問題収拾後の世界経済シナリオ

次期FRB議長のジャネット・イエレン氏〔PHOTO〕gettyimages

このところの世界の株式市場にとっての最大の懸案事項であった米国の債務上限問題は、先送りという形で一応の決着をみた。そして、日本の消費税率引き上げ問題も多くの識者が望んだ来年4月からの引き上げで決着した。さらに、中国、ユーロ圏を含む世界景気はようやく底打ちしつつあるというのが市場のコンセンサスとなっている。

このように、市場を取り巻く様々な問題が一応の解決を見せる中、年末に向けて、今後、市場環境はどのように推移していくのだろうか。いくつかのポイントについて、筆者なりの考えをまとめてみた。

米国経済は「極めて緩やかな回復過程」に回帰する

まず、米国経済については、政府債務上限問題で政府機能の一部が停止した影響が懸念されている。さらに、FRBによる量的緩和解除(いわゆる「Tapering」)がもたらした長期金利急上昇が好調であった住宅市場に与える影響も懸念材料として指摘されている。

だが、筆者は、「基本的」には、米国経済はこれまでの「極めて緩やかな回復過程」に回帰するのではないかと考える。

その最大の理由は、FRBによる早期の量的緩和解除の可能性が大きく低下したことである。1月に任期切れを迎えるバーナンキFRB議長の後任には、これまでバーナンキ体制を支えた現FRB副議長であるジャネット・イエレン女史が指名された。

イエレン女史はバーナンキ現議長同様、現在の量的緩和政策の効果をよく理解しており、その解除は慎重にすべきという「ハト派」の代表格である(ちなみに夫であるジョージ・アカロフ氏は、バーナンキの金融政策の理論的な基礎の1つである「情報の経済学」での功績が評価され、2001年にノーベル経済学賞を受賞している)。

筆者は仮にローレンス・サマーズ氏が次期FRB議長に就任していたとしても、量的緩和解除には意外と慎重だったのではないかと考えるが、イエレン女史は候補者の中でも「ハト派」の最右翼であり、最も安定感のある「量的緩和主義者」である。

また、現時点(10月21日)の米国の予想インフレ率(「ブレーク・イーブン・インフレ率」、10年物国債利回りから10年物インフレ連動債利回りを引いたもの)は2.19%で米国の平時のブレーク・イーブン・インフレ率である2.3%に近い水準まで回復している(量的緩和解除懸念から長期金利が急騰する局面では、2%を割り込んでいた)。

実質金利は0.44%と1%近い水準から低下しており、住宅市場の減速は一時的なものに留まる可能性が高いと考える。ブレーク・イーブン・インフレ率は米国の株価指数に連動して動いていることを考えると、最近のブレーク・イーブン・インフレ率の上昇は、今後の株価の堅調を示唆している可能性が高い。

さらに、5月から9月半ばにかけて、市場で量的緩和解除の思惑が台頭していた時期には停滞していた企業の景況観(ISM製造業、非製造業の景況観指数など)も大きく改善している(9月のISM製造業景況観指数は56.2で5月の49.0から大きく改善した)。これは政府の債務上限問題が米国株式市場の調整要因になる一方で、企業の景況観には大きな影響を与えなかったことを意味する。

以上より、米国経済は、住宅市場等で一時的な金利上昇の影響による減速がありうるものの、その影響は軽微、かつ短期間で終了し、FRBの量的緩和が継続する中、これまで通りの緩やかな回復過程(リーマンショックからの経済の「正常化」)を続けると思われる(逆に一時的な景気減速は、FRBによる量的緩和解除を封印するという意味でかえって経済によい影響を与えるかもしれない)。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら