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2020年東京五輪 晴海(埋め立て地)の選手村が津波に流される いつくるか分からない直下型大地震世界のトップアスリートが被害者になる

「東京は安全です」と首相が胸を張り、誘致を勝ち得た2020年東京五輪。だが、日本国民の多くも計画の詳細は知らないだろう。海ぎわに施設が集中するなか、世界との安全性の約束は守れるのか。

東京湾は危険がいっぱい

待望の五輪が、東京にやってくる。そのこと自体はめでたいと、多くの地震・防災の専門家たちも顔をほころばせる。しかし世界中から大勢の人が訪れる五輪の防災対策に話題が及ぶと、彼らは「まだまだ課題は多い」と口を揃えるのだ。

「五輪の選手村や競技施設は湾岸部に集中しています。

東京都などによる巨大地震の被害想定によると、死者数が最大になるのは、首都直下地震が起こった場合で約9700人。このうち津波による死者はゼロだといいますが、これは断言できるものではない」

関西大学社会安全学部教授の河田惠昭氏はこう指摘する。河田氏は、政府の中央防災会議で、南海トラフ巨大地震の被害想定をまとめた作業部会の主査を務めた人物でもある。

「この被害想定は、関東大震災と阪神・淡路大震災のデータに基づいて計算されただけ。残念ながら、この程度の犠牲者数では済まないでしょう」

なにしろ、東京五輪の計画を見ると、主要施設の多くが「東京ベイゾーン」と東京都が名づけた臨海部に集中する。都内に設置される33競技会場のうち7割近い23会場、さらに選手村やメディアセンターなど多数の関連施設が海ぎわに建つことになる。

河田氏は、これまでの被害想定は津波に関して甘いのではないかと指摘する。

「たしかに、東京湾の海底地形は平坦で、ここで過去に大きな津波は発生していないと考えられる。太平洋から東京湾への入り口の部分がくびれており、大きな津波が入りにくいためです。また伊勢湾や大阪湾に比べて東京湾は浅い。これも津波が大きくならない要因です。それでも、震源の位置によっては津波は2m以上になると想定されている。さらに現状では、東京港の防潮堤など海岸施設は建設から40年以上経過しているものがある。見た目はきれいでも耐震性や液状化の心配があり、実際にはボロボロ。東京の海岸施設すべてを作り直すには、約4兆円かかりますが、五輪をやるからには今後の7年間で少しずつ新しくしていくしかない」

東京工業大学大学院理工学研究科の高木泰士准教授は、一般にはあまり知られていない東日本大震災時の東京湾での津波について調査を行ってきた。

「3月11日には気象庁の晴海検潮所で1・5mの津波高が観測されていますが、隅田川においても岸辺のテラス上に浸水が発生し、1・43~1・46mの津波痕跡が確認されました」

なんだ、そんな高さかと思われるかもしれないが、あなどってはいけない。

通常の波はたいてい、1回ザブンと水が寄せればおしまいだ。だが津波は、高さは低くても、大量の水が長い時間をかけて押し寄せ、次に一気に引いていく。この引き波の力は強く、30cmでも浸かっていれば、成人男性でも立っていることはまず不可能だ。

ひとたび津波のなかで倒れ込めば、沖合数十kmまでみるみるうちに流される。その速度は陸地近くで時速36km、沖合では時速100kmを超える。

2009年の世界水泳選手権でブラジルのシエロフィーリョ選手が叩き出した、競泳100m自由形の世界記録46秒91でも、時速換算ではわずか7・67km。五輪級の水泳選手であっても、津波に逆らって泳ぐことなど到底できない。

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