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コントロールできてない福島「原発沖海水汚染」を独自測定
1.5km沖から撮影した福島原発。右が建屋カバーに覆われた1号機。中央が2号機だ。前方のタービン建屋左端のシャッターが壊れ、内部が潮風にさらされているのが分かる〔PHOTO〕桐島瞬

取材:桐島瞬(ジャーナリスト)

福島県いわき市内の港を出港して約1時間。波間から巨大な建物群が見えてきた。東京電力、福島第一原発である。

本誌記者が乗った地元漁船は10月初め、福島原発沖1.5kmの地点まで近づいた。この日は休日のため敷地内には作業員の姿はほとんど見られない。2号機タービン建屋の海側のシャッターはめくれ、クレーンなどの重機は潮風にさらされたまま。錆の進行が激しいのか、排気塔や建屋の壁は茶色く変色した部分が目立つ。

採泥器を海底に沈め、泥をとる。後日出た測定結果では、585ベクレル(1kgあたり。単位は以下同)を検出した。国の放射性物質放出基準値(セシウム134は60ベクレル)の、10倍近い数字である。東電が10月4日に発表した海水の測定結果では福島原発近海で放射性物質は不検出としているが、汚染物は海の底に溜まる。本誌は福島原発沖など3ヵ所を測定しそれぞれ海水からは放射性物質を検出しなかったが、海底の泥からは基準値以上を計測した(詳細は後述)。安倍晋三首相も「(汚染水は)湾内0.3km2の範囲内で完全にブロックしている」と発言しているが、実際は「コントロールされている」どころではないのだ。漁船の船長は「東電や国は『安全だ』と言うばかりだ」とつぶやいた―。

流出の止まらない汚染水。8月19日に貯蔵タンクから約300tが漏れたのが発覚、10月9日には作業員が誤ってホースの継ぎ手を外し配管から漏れ出た。切り札として期待された、62種類の放射性物質を除去でき、一日に500tを浄化可能という多核種除去装置「ALPS」もトラブル続き。3月に試運転を開始したが、設計の不具合や器内の腐食などで10月5日には3つある系統はすべて停止した。

「開発した東芝や東電は相次ぐ汚染水の対応に追われ、ALPSを管理できていません。通常は2ヵ月の教育が必要なのですが、人が足りず操作しているのは2日ほど実習を受けただけの素人ばかり。運転前に使ったゴム製のシートをタンク内に置き忘れ排水口を塞いでしまったり、ボタンを押し間違えて緊急停止させるなど、信じられないようなミスが続出しているんです」(原発作業員)

福島原発沖での調査を終え、今度は50kmほど南に離れたいわき市の久ノ浜に戻り海底の泥を採取した。測定結果は、原発沖1.5kmの地点よりはるかに高い894ベクレル。約70km離れた茨城県北茨城市の大津港では、73ベクレルを検出した。放射線量には場所によってかなりのバラつきがあるようだ。東京海洋大学の神田穣太教授が解説する。

「事故直後の2ヵ月間で、海へ流れ出たセシウムは3500兆ベクレルになると推定されます。その後2年半の流出量は20兆ベクレルです。現在でも毎日30億から100億ベクレルの汚染水が漏れていると考えられますが、福島原発の港湾を出ると希釈されてしまう。海の水は特殊な方法で測定しないと、放射性物質はほとんど検出できません。海底に堆積したものが、海を汚染しているのです」

稲刈り前の田の隣に汚染ゴミ

汚染が進んでいるのは、海だけではない。福島県北部の農村。稲刈り間近の田んぼには、異様な光景が広がっていた。田のすぐ隣に、除染作業で収集した汚染された牛糞や落ち葉を詰め込んだ黒いフレコンバッグが、1000t分も放置されているのである。田の土を測定すると、放射能は2359ベクレルにのぼった。空間の放射線量も汚染ゴミ周辺で毎時1.7マイクロシーベルト、田では1.2マイクロシーベルトを計測。除染基準値である0・23マイクロシーベルトを、大きく超える。田の所有者が諦め気味に語る。

「昨年の夏から、田んぼの隣が仮置き場になっています。(自治体から)放射線量は高くなく、袋の下にはゴム製のシートを敷いて内部の水が漏れないようにしていると説明がありました。その言葉を信じるしかない……。米を作っても問題ないと言われているので震災後も農家を続けていますが、袋を他に持っていってくれとはとても言えません」

汚染ゴミの最終処分場は、いまだに決まっていない。1ヘクタールの土地を除染すると、約400個のフレコンバッグが必要となる。福島県の田や畑は農家によって10~20ヘクタールの広さがあるので、一軒でフレコンバッグ約4000個分の仮置き場が必要となるのだ。この村で農業を営む、別の住民が話す。

「最終処分場どころか、汚染ゴミの量が多すぎて仮置き場の造成すら間に合っていません。民家の前や、道路の隣に放置されているものもある。みんな迷惑しているんです。そんな状況では、近くにゴミが置いてあっても自分だけ『他に持って行け』とは言えないでしょう」

田んぼ近くに放置された、フレコンバッグ群。10月8日には原発から20km圏内で、3年ぶりに稲刈りが始まっている〔PHOTO〕三好健志

汚染ゴミと隣り合わせで刈り取られた稲は、福島県の農協の審査を受け基準値(100ベクレル)以下なら全国へ出荷される。ゴミを放置せざるをえない自治体担当者も困惑気味だ。

「住民の合意を得るようにしています。ただ汚染物を近くに置きたくないのが本音。1回の話し合いでは決まりません」

こうした問題に対し、東電は以下のようなコメントを寄せた。

「汚染水問題は最大の経営課題として、全社一丸となって対策に取り組んでいきます。海底に関してもほぼ問題ないレベルです。長期の廃炉作業を安全確実に行うため、計画的なメンテナンスや設備のリプレイスを実施していく考えです。福島の漁民や農家の方々にはご迷惑をかけ、心からお詫びいたします」(広報部)

本誌が目にした汚染の現状と比べると、東電の謝罪はどこか空疎に響く。

「フライデー」2013年10月25日号より

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