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裁判所よ、認知症の老人はベッドに縛り付けておけというのか 認知症の親が徘徊→線路に入って列車事故 家族に720万円の損害賠償命令
街をさまよう高齢者は増える一方〔PHOTO〕gettyimage

認知症はいまや国民病である。体に鞭打ち、大切な肉親を介護したが、ふとした瞬間にいなくなり、大人数に迷惑をかけてしまった。その賠償まで背負わされるとは—判決は無情だ。他人事ではない。

ほんの一瞬目を離したすきに

「家族の責任がゼロとは言えないのでしょうが、訴訟を起こされた側の立場で考えると、途方もない裁判です。死亡した男性本人を制御するのは難しかったのだろう、という想像は簡単にできるはず。家族側の悲しみ・苦しみに対する想像力が、訴訟を起こした側にはあまりにも欠けているのではないでしょうか。

裁判所も論理的に結果を出したのでしょうが、やはり普通の人の想像力が欠如していると思います。人間は論理だけで生きているわけではありません。

これを機に、認知症の方がトラブルを起こしてしまった場合、どうすればよいのか、なるべくなら家族に賠償を負わせないように、新たな仕組みを考えるべきではないでしょうか」(脚本家の山田太一氏)

認知症を患って徘徊し、列車にはねられ死亡した男性を巡るひとつの判決が今、波紋を呼んでいる。

実際、10月1日付朝日新聞の声欄に、認知症の妻を持つ72歳男性が、〈(判決内容に)介護する者として強い憤りを感じる〉と、次のような投稿を寄せている。

〈妻は60歳でアルツハイマー型認知症と診断され、現在12年目。要介護4だ。

数年前の徘徊がひどいときは、1時間以上の徘徊が年に30回以上あった。地元の警察に5回も保護された。ひどいときはバスや電車を乗り継いで東京まで行った。バッグに全地球測位システム(GPS)機能付きの携帯電話があったため追跡できたが、保護されたのは8時間後。(中略)

家族が必死に介護していても徘徊を止められないことがある。そのような実態を少しでもふまえたら、介護家族にのみ責めを負わすのはあまりに酷だ〉

そこには、少子高齢化や老老介護、家族関係から法律の不備まで、現代日本が抱える様々な問題が隠されている—。

まずは、今回の事案の概要を簡単におさえよう。

'07年12月、愛知県に住む当時91歳の男性(以下A氏)が、JR東海道線の共和駅で線路内に入り、快速列車にはねられて死亡した。

JR東海はA氏の遺族に対し、振替輸送などに伴う損害賠償を求めたところ、今年8月、名古屋地裁は720万円の賠償金を全額認めたのである。

A氏には'00年より認知症の症状が出始め、A氏と同居する当時85歳の妻(以下B子さん)と、彼の長男の妻(以下C子さん)が介護に当たっていた。

事故当日の午後4時半すぎ、C子さんは自宅玄関先でA氏が排尿した段ボール箱を片付けていた。A氏は普段からトイレの場所が認識できず、所構わず用を足す状態だったため、あちこちに段ボール箱などを置いて対処していたという。

このとき部屋の中には、A氏とB子さんのみ。ちなみにこのB子さんも要介護1の認定を受けており、老老介護は限界があるため、「長男の嫁」としてC子さんが横浜の自宅から単身、A氏宅の近所に引っ越し、毎日、B子さんとともにA氏の介護にあたっていた。

だが、時間にしてわずか10分足らず、B子さんがついうとうとした隙に、A氏は家から出てしまう。

B子さんとC子さんがA氏の行方を懸命に探すも、約1時間後、A氏は自宅最寄り駅の隣駅で、列車にはねられた。結果、約2万7000人の足に影響し、JR東海は対応に追われた。

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