【第13回】はこちらをご覧ください。
今回は、「相手によって表現方法を変えるための頭の柔軟体操」について説明します。
わかりやすく説明するためには、「相手に合わせた表現」ができるようにならなければいけません。じつは、これが「説明力」の本質です。相手に合わせて表現を変えることができる人は、わかりやすい説明ができるようになります。逆にそれができないと、いくらテンプレップの法則で話を組み立てても、わかりやすくはなりません。
ただ、これは簡単ではないのです。
慣れていないと、ふだん自分が使っているパターンでしか表現できません。頭が堅くなっているわけですね。
そこで、頭を柔らかくすることが必要になります。相手に応じて、相手が分かるように表現や説明内容を変えられれば、結果的に説明が分かりやすくなります。
私は、わかりやすく説明する技術を大学受験予備校で教えてもらいました。代々木ゼミナールの英語講師・富田和彦さんの授業を通じて、この技術を学んだのです。
「英語と分かりやすく説明する技術と、どう関係があるの?」と不思議に感じる方もいるでしょう。そこで、私が富田先生の授業から、どのようにこの技術を身に付けたのか、説明します。
突然ですが、「often」という単語を何と訳しますか?
おそらく9割以上の方が「しばしば」と訳すでしょう。「しばしば」で正しいです。でも、考えてみてください。日本語で、「しばしば」って使いますか? 日本で言うなら「たまに」「時々」ではないでしょうか?
「しばしば」と「たまに」「時々」に明確な区別をして使っているのなら、まだ話は別です。でもそんな人は稀だと思います。
私たちは、中学校の英語の授業で「『often』は『しばしば』と訳す」と教えられました。そして、その訳が適切かどうかは、再検証する機会はほとんどありません。そのため、「often」が出てきたら、そのまま「しばしば!」と訳してしまうのです。
富田先生の授業では、「本当にその訳でいいのか?」「日本語として意味は通じているのか?」を徹底的に考えさせられました。ここで、「より適切な表現がないか考える癖」が身に付き、同時に「より適切な表現を見つける技術」も学んだのです。
それまで私は「often」が出てくるたびに、常に「しばしば」と訳していました。でも、時と場合に合わせて日本語訳を変化させることができるようになったのです。子供のセリフだったら「たまに」、上品な老人の言葉だったら「時折り」、学生が言った言葉だったら「最近こういうことよくあるよね」と訳せるようになりました。
当時は全く気が付いていませんでしたが、その時まで「ガチガチに堅かった頭」が「柔らかく」なっていたのです。
じつは、このTPOに応じて訳を変える能力が、相手によって説明表現を変える力と全く同じなのです。この「訳し方」ができるようになると、自然に「この相手だったら、この表現が適切だな」と考えられるようになるわけです。
つまり、私はこの授業を通して「頭の柔軟体操」を行っていたことになります。
そして、徹底的に頭の柔軟体操を繰り返したおかげで、その後は、時と場合と相手に合わせ「伝え分け」ができるようになりました。
繰り返しになりますが、これは頭の良さ(IQの高さ)やセンスではありません。継続的に頭の柔軟体操をしていれば、誰もが身につけられる技術です。
ここからは、その「頭を柔らかくする方法」「頭の柔軟体操」を紹介していきます。