7年後の東京オリンピック開催ができない!?報道は減ったが、尖閣を巡る緊張感にかわりなし---『超訳小説日米戦争』から読み解く今の日本と世界
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」くにまるジャパン発言録より

邦丸: いきなりなんですが、佐藤さんがものすごい勢いで本を出し続けていらっしゃいますが、佐藤さんはご自分でこの本が何冊目かとカウントしたことありますか。

佐藤: いや、カウントしたことないです。

邦丸: もう数十冊を軽く超えていると思うんですけど。

佐藤: 50冊は超えていると思いますが、100冊は超えていないと思います。

超訳小説日米戦争
税込価格:1,680円
発売日:2013/9/
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邦丸: その中で、翻訳ではなく『超訳小説日米戦争』という本がありまして、原本は大正9年に書かれていたものだそうですね。

佐藤: 大正9年当時の大ベストセラーです。

邦丸: 樋口麗陽さんという人が書いた『小説日米戦争未来記』を原本として、これを佐藤さんが“超訳”をされた。

佐藤: 大正時代の日本語だと、そのまま復刻してもちょっと読みづらいんですね。ですから現代でもわかるように翻訳するという作業が必要だったので、“超訳”ということにしました。

伊藤: 訳を超えると書いて、超訳なんですね。

邦丸: だから「肉食系男子」とか「草食系男子」とかいう言葉も出てくるんです。大正9年にこれを書いた樋口麗陽さんという人は作家でもあり、ジャーナリストでもある方なんでしょうか。

佐藤: この人の履歴を国会図書館で調べたんですが、1932年に亡くなったということしかわからないんですよ。ということは、これはペンネームだと思う。

邦丸: ああ、ペンネームね。

佐藤: 書かれた内容からすると、国際情勢にそうとう通暁していますから、当時の同盟通信社──共同通信、時事通信の前身ですね──の幹部、もしくは毎日新聞か朝日新聞の幹部でなければ、このぐらいの情報に接することはできなかったのではないかと思われます。

邦丸: その樋口麗陽さんがお書きになった『日米戦争未来記』という小説が描くのは、1990年代、つまり20世紀の終盤ですね。

佐藤: 1999年ぐらいを想定しているんです。そのときに日本とアメリカがついに戦争になる。そしてどういうふうになるかというシナリオなんです。

邦丸: 実際には大正9年の20年後には日米戦争に火が点いたんですけれど。佐藤優さんが訳すだけではなく、どうしてこういう書き方をしているのか、こう書いているウラには何があるのか、後半部分で解説をされているんですが、これを読んでいると、ちょっと待てよ、大正9年というと私の亡き父が産まれる前なのに、そんな時代に樋口麗陽さんは、当時の為政者や権力者、それも日本、アメリカ、ヨーロッパの国々の人たちの考えを非常によく描けているんですね。今とあまり変わらないじゃないかというところが随所に出てきます。

佐藤: 実際にはロシア革命がこれが書かれた3年後に起こるわけですが、この本ではレーニンとトロツキーが死んだ後はロシアは共産主義をやめちゃって共和国になるんだけれど帝国主義になる、と書かれています。それから日本の第一艦隊がハワイを占領すべく攻めたが、日本は大負けしてしまい、さて、本当のことを国民に言うかどうかと政府で協議して、やっぱり本当のことを言ったほうがいいだろうということで言ったら、国民が自暴自棄になっちゃってスパイ狩りが始まり、東京では不動産の投げ売りが始まる、と書かれていますよね。

邦丸: 後ほどこの本を読み解きながら、今の日本と世界というのはどうなのかというお話を佐藤さんに伺おうと思っています。

深読みジャパン

邦丸: 冒頭でご紹介したとおり、佐藤優さんがお書きになった新しい本『超訳小説日米戦争』とこれからご紹介するニュースは、密接な関係があるということで、まず、このニュースからまいります。

伊藤: 共同通信から。「日米の防衛協力指針再改定に着手へ」

日本とアメリカの外交・防衛担当の四閣僚による安全保障協議委員会、いわゆる2プラス2が昨日、東京都内で開かれました。日本側からは岸田(文雄)外務大臣と小野寺(五典)防衛大臣、アメリカ側からはケリー国務長官とヘーゲル国防長官が出席しました。今回の協議では、日米同盟を強化するために自衛隊とアメリカ軍の役割を定めた防衛協力指針、いわゆるガイドラインを再び改定する作業に取りかかり、来年末までに完了することで合意しました。

ガイドラインの再改定は、中国の軍事的台頭や海洋進出をにらんだ措置です。日米間の今後の作業では、沖縄県の尖閣諸島など南西諸島周辺での警戒や監視活動を強化することや有事の際の役割分担、それにサイバー攻撃や宇宙空間の利用など新たな分野での連携のあり方がテーマとなります。また、沖縄にあるアメリカ海兵隊がグアムへの移転を開始する時期を2020年代の前半にすることなども共同文書に盛り込まれました。

邦丸: かなり中国を意識した会談になったということですね。

佐藤: そのとおりです。ところが最近、どうですか。ニュースを見ていると、尖閣を巡る緊張に関するニュースが減っている感じがしませんか。

伊藤: します。

佐藤: しかし、実際には実態はぜんぜん変わっていないんですよ。これはオリンピック・シンドロームなんです。もし尖閣で何かトラブルがあったら、日中間の衝突があるなんていうことになったら、2020年の東京オリンピックは開催できなくなるかもしれませんよね。それはまずいという意識が政治エリート──政府の人や官僚──にある。となるとマスメディアにおいても、中国との関係が悪いということに関してはあまり報じたくないなという感じになってきちゃうんですね。日本全体がある意味で「オリンピック」という魔法にかけられちゃっているわけですよ。

だから、今の日本の外交というのはものすごく平和外交なんです。シリアについても、普段だったらアメリカが攻撃すると言ったら「そのとおりだ」と支持するんだけれども、「ちょっと待ってくれ」と言った。どうしてかというと、オリンピックの開催地に東京が選ばれなくなるかもしれないということへの配慮ですよね。

猪瀬直樹東京都知事にしても14億円集めて、尖閣に船だまりを造るんだ、増え過ぎたヤギの対策もするんだ、野田(佳彦)政権ではできなかったけれど東京都ならきちんとできるんだと言っていたけれど、今、尖閣については完全に発言を封印しているでしょ。そういうふうだから、日中間の緊張が見えづらくなっているんですね。

邦丸: 見えづらい。実態は悪いままだということですね。

佐藤: はい。中国のほうから見ると、しめしめ、オレたちの力に対して日本も怖気づいているな、よし、一歩駒を進めてやろうかという感じになっているわけですよ。

邦丸: うーむ。

佐藤: ですから今、非常に注意しないといけないのは、前にも言及しましたが、東洋学園大学の朱建栄先生の行方がいまだよくわからないことですよね。中国の報道官が「朱建栄は中国公民であるから法律を守らなければいけない」ということを言っている。実際は、日本のスパイ容疑で拘留されているわけですよ。こういうカードを持って、いつキャンペーンを始めてくるかわからないという、こういう状況なんですね。日中関係は異常に危ういところにある。

だから今度、日米の四閣僚──防衛、外務の両方の閣僚が集まって、対中対策をもう一回やり直さないといけないよという形でガイドラインの見直しをするということをやっているわけですよ。そうすると中国にしても、オレたちを相手に構えて本格的にやってきたな、これはこっちとしてもどういう対応をとるか、少し強く出てやるかと考え、エスカレートが始まっているんです。しかし、それが見えにくくなっているんです。

邦丸: オリンピック・シンドローム。

佐藤: オリンピック・シンドロームです。リアルな政治を見ていくということと平和を追求していくということは両立するんですけれども、希望的観測で常に平和的な状況だけを考えていると、いつの間にか大変なことが起きているという、その危うさがあるんです。

邦丸: 以前、佐藤さんがおっしゃっていましたけれど、中国も決してすべて一枚岩ではないんだと、日本の外務省に相当する中国の外交部と公安当局の間でちゃんとコミュニケーションがとれているかというと、そうではないということでした。お互いの役所の縄張り争いがあるなかで、外交部にしても、朱建栄先生を拘束するというのはまずいんじゃないのという空気もあるという。

佐藤: もちろん、あります。ところが、それがもう言えないぐらい力関係においては国家安全部、要するに秘密警察ですね、そちらのほうが強くなっているんですね。それから中国の新興勢力は海軍なんです。これもまた強くなっている。ですから、中国のほうは勇ましい人たちが強くなっているという感じで、戦前の日本を彷彿とさせるんですよね。

邦丸: 戦前の日本を彷彿とさせるということで、この本を見ましょう。『超訳小説日米戦争』、これは大正9年に、詳しいプロフィールがいまだにわからない・・・・・・。

佐藤: 謎の作家です。

邦丸: そうですね、樋口麗陽という方がお書きになった『日米戦争未来記』では、1990年代に日米で戦争が起こると書かれているんですが。

佐藤: そうですね、21世紀の直前ぐらいのタイミングですね。

邦丸: 『小説日米戦争未来記』に書かれていることをもう一回読み直してみると、今の状況に酷似しているところがあまりにも多い。

佐藤: そうなんですよね。要するに、日本は国際連盟を信頼していて、平和な世の中になるのだと思っていた。ところが、アメリカというのは口先では平和や国際協力を言うのだけれど、実際には巨大な資本の力でアジアを席巻しようとしている。今のTPPですよ。それで、当時は朝鮮は日本の植民地でしたから、反日と朝鮮半島の独立を煽る。

中国の反日機運を煽る。それによって日本を包囲していこうという考え方をしている。戦争がもし始まった場合には、アメリカに住んでいる日本人は、きっと日本本国の指令を受けていろいろな破壊活動をするだろうから、砂漠に全部集めてしまおう。そして皆殺しにしてしまおうと計画している。こんなことが書かれているわけです。

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