いま、日本で最高の役者かも 何でも面白くしちゃう香川照之(大和田常務)という男、その内実

2013年10月11日(金) 週刊現代

週刊現代賢者の知恵

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「明日にも取締役会で不正を追及されるというその晩に、何も知らない女房から『100万円を用立ててくれる?』と言われたあとの大和田の顔。あの表情が一番印象に残りました。この女を愛しているから俺はこんなことにまで手を染めてしまったという顔なのか、男としてのプライドなのか、微妙な芝居だった。あそこで女房を憎々しい目で見たら下手くそだけど、人間性の〝揺れ〟が見て取れた。いくつもの感情が混ざり合う場面だから、理屈ではあの表情は出せないんです。凄い役者だと思いましたね」

今回の『半沢直樹』でも見事な悪役を演じきったが、過去に香川は、あの土下座シーンを彷彿とさせる悪役をこなしたことがある。映画『カイジ~人生逆転ゲーム』('09年)での利根川幸雄役だ。主人公カイジと利根川が人生を賭けてゲームで対決。結果、利根川は敗れ、苦悶の表情を浮かべて土下座をする。

同作の監督を務めた日本テレビ制作局エグゼクティブディレクターの佐藤東弥氏は、彼を悪役に起用した理由をこう明かす。

「自分が罵った人間に敗北し、全身の毛穴から血が噴き出すほどの屈辱を味わう。そんな状況を表現してくれる役者は誰かと考え、香川さんにお願いしたんです。人間の醜い部分を掘り下げる独特の力は凄まじかった」

本来の自分の姿を消し去り、観る者すべてにその存在を憎々しく思わせる—香川の悪役の〝魅力〟は、ここにあると言えるだろう。

天才だけど努力の人

歌舞伎役者の二代目市川猿翁を父に持ち、母親は女優の浜木綿子。役者の道に進むことは生まれる前からの定めだったようにも思えるが、香川は昔から俳優を目指していたわけではない。

小中高と一貫して東京・暁星学園に通い、学年トップの成績を収めるほどの才知に恵まれた。東大の文学部に現役で合格。卒業後、役者になったのは、「満員電車に乗らなくて済む楽そうな職業として、役者になることを選んだ」からだという。

消極的な理由だったとはいえ、役者になることを決意した香川は、ドラマのADからスタートし、'89年、大河ドラマ『春日局』で俳優デビュー。その後、徐々に役者としての幅を広げていくことになる。

今でこそ、天才俳優との呼び声も高いが、駆け出しの頃は思うようにいかず苦しんだ。前出の鹿島監督は、「一分の才能、九分の努力」と香川を評する。

「彼がまだ20代の頃、『静かなるドン』の撮影で100回くらいNGを出したことがあったんです。あいつは東大も出て頭がいいから、頭の中で構築した理屈や哲学で演じようとしていた。人間の感情は理屈ではないんだ、とその演技を全部やめさせるまでに100回くらいかかったのです。

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