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いま、日本で最高の役者かも
何でも面白くしちゃう香川照之(大和田常務)という男、その内実

憎たらしくてたまらないのに、どうしても目が釘付けになってしまう。『半沢直樹』で一番強烈だったのは、敵役の大和田常務だった。香川照之の演技は、どうしてこんなにも人を惹きつけるのか。

彼だけが表現できること

「僕は演技上、机に突っ伏していたので、直接、大和田の土下座は見られなかったのですが、時間の長さとともに香川くんのうめき声がだんだん過激になっていく、その息遣いだけは伝わってきました。オンエアでこのシーンを見ましたが、あれは大和田が『ぜったいに半沢には負けていない』という意志が伝わる土下座でした。大和田は、その後頭取に助けられて初めて〝負ける〟んです。解雇ではなく降格を言い渡されたとき、初めて香川くんは死んだ目をした。そこを計算している。本当にすごい役者です」

こう話すのは、『半沢直樹』で大和田常務の側近、岸川取締役を好演した森田順平氏だ。40%超で平成のドラマ最高の視聴率を叩き出した最終話で、もっとも印象的だったのは、なんといっても香川照之(47歳)演じる大和田常務の土下座シーンだろう。

取引先の運用失敗を隠蔽し、妻の会社へ3000万円もの迂回融資を指示していた大和田。取締役会で半沢直樹がその不正を暴き、大和田に土下座を迫る。それは、過去に自分の父親が大和田のせいで自殺した怨念を晴らすためでもあった。

「やれーっ!大和田ーっ!!」

鬼の形相で叫ぶ半沢を、大和田はただ、睨み返すばかり。拳を握りしめ、抵抗して震える体を押さえつけながら、徐々に膝を曲げていく。歯をかみしめ、悔しさで呻きながらついに首を垂れた—。

「あのシーンは唸りました。台詞がなくとも、顔の筋肉一本一本を動かして、悔しさに耐える表情を作りだしている。でも常務であるというプライドは消えていない。受け身の演技はなかなかできないものですが、香川さんは見事やってのけていました。いままでの『受け』の演技で一番素晴らしかった」(作家・麻生千晶氏)

視聴者が釘付けとなったこのドラマで、主役の堺雅人を凌ぐ勢いで強烈なインパクトを残したのは、香川照之、その人だ。いま最高の俳優と言っても過言ではないだろう。彼の役者としての魅力、迫力はいったいどこからくるものなのか。

大和田役でも顕著だったが、香川の演技に突出しているのは「顔技」とでも言えるその表情にある。

『静かなるドン』('91年~)で香川を抜擢した鹿島勤監督は、『半沢直樹』最終回のこんな場面に彼の役者としての魅力が現れているという。