朝ドラの異色作『あまちゃん』、全編に満ち溢れていたのはクドカンの"やさしさ"だった

NHK連続ドラマ小説「あまちゃん」公式HPより

あまちゃん』(NHK)の半年間にわたる放送が終わった。これほど終了が惜しまれた連続テレビ小説も極めて珍しい。やはり大ヒットして、その爆発的な人気現象が"おしんドローム"と呼ばれた『おしん』(1983年)以来のことだろう。

朝ドラ史上初の天然ボケ主人公・天野アキ(能年玲奈)の純粋さ、ひたむきさに心を温められた。その親友・足立ユイ(橋本愛)の憂いを含んだキャラクターには胸を締め付けられた。登場人物たち全員の姿が今も忘れられず、大友良英氏によるテーマ曲が耳に残ったままだ。

斬新かつ革新的で、見る側を楽しませることを忘れない天才

大ヒットとなった最大の功労者は、もちろん物語を紡いだクドカンこと宮藤官九郎氏だろう。希代のストーリーテラーであり、ユーモアとペーソスのどちらのセンスも抜群で、しかもオリジナリティーが強い天才肌の人。今回は朝ドラという一定の枷を設けられたことで、より幅広い支持が得られる作品が編まれたと思う。ややもすれば、ファン以外からは難解と見られることもあるクドカン作品が、本質を崩さぬまま、ポピュライズドされた。

劇中にアニメを採り入れるなど、「こんなこと朝ドラでやっていいの?」という声が当初はNHK内でさえも上がるほどの異色作だったが、クドカン・ワールドの広さと深さは、こんなものではない。本来のクドカンの持ち味を考えれば、これでも随分と抑制が利いていた。クドカンが朝ドラという枠を考慮したのだろう。

たとえば、TBS『木更津キャッツアイ』(2002年)では、物語を倒置法的に逆回転させる技法で見る側を唸らせたし、『真夜中の弥次さん喜多さん』などの映画はさらにシュール。斬新かつ革新的で、しかも見る側を楽しませることを決して忘れない。まさに天才肌。いや、天才と呼んでも差し支えないだろう。

なにより書いておきたいのはクドカンの"やさしさ"だ。『あまちゃん』でも全編にやさしさが満ち溢れていた。大きな不幸に襲われた登場人物は皆無だし、本当の悪党も登場しない。一時はアキを虐げていた太巻(古田新太)とて、やっぱり良い人だった。物語づくりにおいて、実は難しいことだ。誰かに苦難を背負わせたり、あるいは無理にでも死なせてしまった方が、視聴者の涙が誘えるのだから。

それでいて人間を過度に美化しないところもクドカンの特色。だから、嘘くさくないし、説教くさくもならない。アキには図々しいところがあるし、ユイも一時は不良になった。アキの母親・春子(小泉今日子)にも家を勝手に飛び出した過去がある。みんな人間くさい。

大吉(杉本哲太)、あんべちゃん(片桐はいり)、教師の磯野(皆川猿時)たちも全員が好人物だが、それぞれが困った面を併せ持ち、旧来の朝ドラに登場しがちだった完璧な人間がいない。実社会と同じ。いい人ばかりじゃないけど、悪い人ばかりでもない。クドカンの鋭い人間観、人生観が表れている。

元来、朝ドラの世界には実社会と懸け離れた道徳が満ちやすく、それが鼻について毛嫌いする人も少なからずいたが、そんな朝ドラの固定概念をクドカンは半年間でぶち壊した。目には見えにくいが、これも大きな功績だろう。

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