官々愕々「租特」という巨大利権
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消費税増税と復興特別法人税の前倒し廃止が大きな議論になっている。この原稿を書いている段階では最終結論が出ていないが、あえて、その裏にあるまやかしの構造について指摘しておきたい。

まず、事実関係を整理しよう。日本の法人税は、途上国はもとより、米国以外の先進国に比べてもかなり高い。最近は企業の海外流出を止めたり、海外企業を国内に誘致するために国際的な法人税引き下げ競争が激化している。そこで、日本も引き下げようというのがもともとの議論としてあった。

その第一弾として、2012年度から法人税の実効税率が40・69%から35・64%に引き下げられるはずだった。しかし、東日本大震災の復興予算の財源のために、2012年度から3年間は、それを38・01%に引き上げる措置が取られている。一方、個人の所得税は2013年1月から25年間、税額に2・1%を上乗せし、住民税は2014年6月からの10年間、年1000円上乗せする措置が取られている。

今議論されているのは、来年4月の消費増税による景気腰折れ防止のために、「短期の経済対策」として、法人税の上乗せ措置を1年前倒しで廃止するというものであるが、それに対して、消費者に増税して企業だけ減税を行うのはおかしいという批判がある。この議論は、感情論としては、良くわかる。しかし、もっと強く批判されるべきことがあるのをご存知だろうか。

国際競争と雇用維持の観点から、法人税減税が、中長期の「成長戦略」の課題となっていたことは前述したとおりだが、その観点から言えば、やるべきことはまず法人税の本則の税率を恒久措置として引き下げ、その上で復興特別税上乗せを継続するということだ。

しかし、もし法人税本則を見直して恒久減税をするとなれば、財源捻出のために法人税に関する「租税特別措置」(「租特」)を全面的に整理(廃止)しろと財務省に言われるのは必至だ。

ここで言う「租特」とは何か。

それは、ある一定の条件を満たす場合に限り、法人税を特別にまけてあげますよという制度だ。例えば、省エネ投資をしたら減税、IT投資をしたら減税、研究開発を増やしたら減税という制度がそれに当たる。各制度には、非常に細かい条件が設定されているのだが、その条件の決定に当たっては、関連の業界団体が担当省庁と族議員に陳情する。これを受けて、各省庁と財務省が交渉し、最後は自民党税調の議員との調整を経て減税措置が決まる。団体はその見返りに天下りポストを提供し、パーティー券を買い、選挙に協力する。複雑で巨大な利権の構造だ。

既得権者たちから見れば、「租特」の全面見直しなど、絶対にあってはならない。しかし法人税の引き下げを求める市場の声に押されて、安倍総理は「法人税減税」を求めている。そこで官僚たちが考え出したのが、復興特別税の1年前倒し廃止だ。これなら「租特」とは関係なく、財務省や自民党税調を含む既得権者たちも異論はない。1年限りのまやかしではあるが、「法人税を下げました」と言えるから、安倍総理の顔も立つ。恒久的な減税ではなく、復興特別税1年分の減税だけで済むから、財務省から見てもそれほどの痛手ではない。

これで肝心の「租特」の抜本見直しは行われず、法人税の抜本引き下げの議論も先送り。他方で、規制改革も看板倒れで「成長戦略」は空っぽのままだ。

このままでは、「消費増税とバラマキのスパイラル」だけが日本国民に残された選択肢ということになる。その行き着く先は・・・・・・。

『週刊現代』2013年10月12日号より

『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
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大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。