寺田悠馬「クリエイティブの値段」

「拡張する現実」のビジネスモデル
「AR三兄弟」の川田十夢、「情熱大陸」出演前夜

2013年09月28日(土) 寺田 悠馬
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その人物の本当の肩書きを、我々はまだ知らない。

今月29日に放映される密着ドキュメンタリー『情熱大陸』に登場する川田十夢氏は、番組の予告編で、「開発者」として紹介されている。ぴたりとくる肩書きがないなか、苦肉の策として充てられた言葉だろう。

日本コカ・コーラ社の「自販機AR」や、著名ロックバンドBUMP OF CHICKENの「BOC-AR」など、人々を魅了してやまないアプリの数々を手がける開発ユニット、「AR三兄弟」を率いる川田氏は、確かに「開発者」に違いない。だが実際に氏と時間をともにすると、川田氏の存在は、「開発者」という言葉の狭い定義を遥か超越するように思えてしまう。

その一方で、氏をより的確に表現するうまい言葉が見つからないのは、川田氏が、社会が未だその定義を知らない世界で、活動していることを意味するのだろう。

川田氏と初めてお会いした日、彼は私に、一つの段ボール箱を見せてくれた。

それはインターネットで買い物をするとよく郵送されてくる、小包程度の大きさの、どこにでもある段ボール箱だった。だが川田氏がこれにスマートフォンをかざすと、その何の変哲もない段ボールの上で、急にアイドルグループが歌い踊り始めたのだ。

いや正確には、川田氏がかざしたスマートフォンのカメラ機能が段ボールの画像を認識し、これが引き金となって端末上のアプリがアイドルグループの3D動画を再生したため、液晶画面越しに覗くと、彼女たちが段ボールの上で踊っているように見えたのだ。

さらに川田氏がスマートフォンを動かすと、段ボール箱の上で繰り広げられるパフォーマンスを、あらゆる角度から追うことができた。背景の画像と再生動画が精巧に組み合わされているため、ごくありふれた段ボール箱の表面が、たちまちコンサート会場に一変したのだった。

「これ、僕がARっていう技術を使って作った作品なんです」

川田氏は、楽しそうに微笑んで私の反応を窺った。

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