中国
「アベノミクス」のセッションが盛況、世界が認めた「日本の復活」 ~2013年「夏のダボス会議」レポート [その3]
「中国の消費型国家への転換」についてのセッション  Some rights reserved by World Economic Forum

[その2]はこちらをご覧ください。

習近平政権へのストレスが中国の各層に溜まってきている

2日目は、朝から中国経済の行方を巡って、熱く盛り上がった。「中国の消費型国家への転換」と題する討論会である。

登壇したのは、胡錦濤政権時代に歯に衣を着せぬ政権批判を展開し、中国国内で波紋を呼んでいた張維迎・北京大学経済学部教授、中国最大6億人が加入する携帯電話会社・中国移動通信の李正茂副社長、「中国の佐川急便」こと煕可集団の朱演銘総裁、そして「市民の安全を守る」という意味で、常に黄色いヘルメットを被っていることで知られる奇才経営者、インターネット・セキュリティ会社・北京網泰天下の林宇CEOである。

司会は、中国中央TVの人気イケメンキャスターで、2010年11月にソウルでオバマ大統領と会見時にケンカして話題を呼んだ芮成鋼だった。この面子を見ただけで、ひと波乱起きそうな気がしたが、予想通り大荒れとなった。

芮: 先週ロシアで行われたG20サミットでも、中国経済に対する悲観論が流れていた。これを払拭するには、中国の消費がキーワードになるが、これをどう見るか?

張: 投資、消費、輸出が、中国の経済成長の3本柱と言うが、輸出は頭打ちで、消費が増えなければ投資は意味がないので、消費こそが支柱だ。だが、7%の経済成長を達成するため、やみくもに消費を底上げするというのでは、本末転倒だ。

李: 消費がキーワードということについては私も同感だが、消費の中身、傾向に注目している。10年前までは、衣食住に関することが消費の中心だった。そこへ、移動(旅行など)という要素が加わった。いままた、わが社が主導している通信(スマートフォン)という新たな要素が加わりつつある。

朱: 消費を増やすには、顧客の需要に基づいてモノやサービスを提供していかねばならない。すなわち政府主導ではなく、市場中心主義だ。例えば北京のビジネスパーソンは、毎日の通勤に往復4時間もかけている。この時間にどんなサービスを提供できるかを考えれば、新たな消費ビジネスは生まれてくる。

林: 中国企業は、消費者への安全感、安心感に対する配慮が足りない。だから消費者はリスクを恐れて、多く消費しないのだ。数年前に起こった粉ミルク事件などがその好例だ。いまの中国には、イノベーションを産む土壌がない。これが根本的な問題だ。私はそのことを広く警告する意味で、常にこのように黄色いヘルメットを被って生活している。

張: 林社長の意見に、私も同感だ。市場は安全かつ自由な環境を欲しているのに、中国政府は市場を縛るだけだ。いまの中国社会は規制だらけではないか。国民の権利を政府が取り上げてしまったのだ。だから国民が何かを得るには、官僚に袖の下を渡さないといけない。このようなおかしな体制を改革していく必要がある。

李: われわれ中国移動は、市場の原理を重視している。例えば、新学期が始まるいまの季節は、全国の大学キャンパスで、携帯電話会社3社による熾烈な新入生の争奪戦が繰り広げられている。それに較べて、微信(中国版LINE)は寡占状態で、何の努力もいらない。

張: それは違う。寡占というのは、アンタたち国有企業と政府との癒着を指す言葉ではないか。微信(を展開している騰訊)は純粋な民営企業だ。政府との癒着に胡坐をかいているアンタらに風穴を開けたのではないか。

李: 何を言うか! われわれは十分、企業努力をしている。

芮: お二人とも冷静になってください。ここはケンカする場ではありません。ちょっと会場にマイクを移しましょう。中国には年間8,000億元から1兆元もの消費があります。消費に関して会場の質問を受けつけます。

すると、会場内の200人ほどの参加者たちが、一斉に挙手した。

――中国では消費者が守られていないように見受けられるが?
――中国は社会保障のセーフティネットがないから消費が増えないのではないか?
――中国の著しい格差社会を是正することが消費拡大につながるのではないか?
――中国独特の戸籍制度が消費の拡大を阻害しているのではないか?
――知的財産権がきちんと保護されれば消費が増えるのではないか?
――対GDP比における所得の減少が消費の減退を招いているのでは?

まるで蜂の巣をつついたように、世界のVIPたちが中国に対して疑問に思っていることが噴出したのだった。芮成鋼はまた頭を抱えてしまい、「では壇上のどなたかが、これらの質問に答えてください」と振った。

張: まず政府が減税を行うことだ。中国では100元の商品を買ったら、30元も政府が持って行ってしまうのだ。3割も持って行って、政府はいったい何に使っているのか。庶民のカネは庶民のために使えと言いたい。

林: IT産業の立場から言わせてもらうと、ついこの間まで中米間には30年もの開きがあったが、いまはかなり縮まってきている。さらに、シリコンバレーのITエンジニアの多くが中国人だ。彼らがごっそり帰国すれば、中国はすぐに「もう一つのアメリカ」になるのに、彼らは決して帰国しようとしない。これは中国に、自由な環境がなく、知的財産を保護する環境もないからだ。中国はこうした環境を整えないと、ますます頭脳流出が加速していく。

朱: いまの中国では、大学生の16%が、職にありつけないまま卒業している。カネがない失業者が消費などするはずもない。政府は「創新」(新たに創造する)のキャンペーンを張っているが、人材も育てず、失業者ばかり増やしていて、何が「創新」だ!

議論はますます収集がつかなくなってきて、芮成鋼はとうとう打ち切ってしまった。この討論会は後日、中国中央TVでオンエアする予定だったが、お蔵入りしてしまったのではなかろうか。

討論会終了後、朱演銘総裁に話を聞いた。上海の立身伝中の人物である朱総裁は、政府と国有企業に圧迫を受ける民営企業の憤懣を、再度ブチまけた。

「金融、教育、社会保障など、すべて政府と国有企業が独占しているから、消費が増えないのだ。簡単なことではないか。中国は一人っ子で、両親の期待を背負って子供の頃から勉強し、ようやく大学を卒業したら就職できない。こんな不合理な社会があるか? そんな中で、中国に最大の新規雇用を生み出した(アリババ集団創始者の)馬雲は、最も偉大な経営者だ」

この討論会で分かったのは、国民への締め付けを強める習近平政権へのストレスが、中国の各層に、相当溜まっているということだった。外国人を前にした公開の場ですら、これだけはっきりと政府批判をブチまけるのだ。

近い将来、中国人の政府への一斉蜂起が起こるかもしれない---そんな予兆を感じさせる討論会だった。

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