ファンドマネジャーが語る「創業から上場までの50のポイント」

そういえば「起業」について本を書きました。

ファンドマネジャーが起業の本??? と思われるかもしれませんが、そもそもレオス・キャピタルワークスも私が起業をした会社ですし、スタートアップから投資をしたウォーターダイレクトも今年の3月に見事に東証マザーズに上場を果たしました。上場株の投資だけでなくて、未上場の投資および未上場企業の投資も経営もしているんです。

今回の本では、起業してから上場するまでのよくある問題を、実際にあった10のストーリーに基づいて、「起業あるある物語」にしました。

ここで特別にエピソード1をご紹介します。レオス・キャピタルワークス創業時の話です。

色も形もバラバラの備品の一つひとつが"勲章"

「ただいまー! 皆さん、喜んでくださぁい。今日も大収穫ですよ!」

いつものように、明るいオーラを発散しながら、勢いよく扉を開けたのは相良だ。

"収穫"といって彼女が配り始めたのは、美味しそうな総菜パン。元気でオープンな性格の相良さんは、友だちをつくるのがとても得意だ(彼女はいま管理系の仕事を担当しているが、本来は営業向きだと私は思っている)。最近仲良くなったという近所のパン屋さんのところに、「たまたま通りかかったふうを装って」閉店間際におじゃまし、売れ残りのパンを頂戴してくるのだ。

それを、私たちは残業食としてありがたくいただく。「今日はアタリだなぁ」「あの店長、僕らだけで行っても何もくれないのに」なんて言いながらパンをほおばるのは、創業メンバーの五十嵐と湯浅だ。

ここは千代田区一番町にあるビルの一室。私が3ヵ月前に設立した株式会社レオス・キャピタルワークスのオフィスだ。

オフィスと言っても、決して立派なものではない。四角い空間にあるのは、私を含めて4人分の机、椅子、電話、冷蔵庫、パソコン、ホワイトボードくらい。来週にようやく応接用のテーブルセットが揃う予定だ。

「起業」というと、真新しいピカピカのオフィスで華々しいスタートのような印象を持たれがちだが、実際は違う。私の自己資金をメインに集めた資本金1000万円は、オフィスのリフォームや従業員への給与支払いで、見る見る減っていった。新品の備品を揃えるような"見栄"にかけるオカネはないのである。もっと言えば、たとえ資金が潤沢であったとしても、かけるべきではないコストだと私は考えている。

実際、私はほとんどの備品をタダで調達していた。つまり、"もらいもん"でまかなっていたのだ。起業を決めたときに、知り合いに声をかけて「いらない備品は何でも譲ってくれ」とお願いした。わかりやすいように「欲しいものリスト」まで作ったほどだ。

すると、「部署の閉鎖があるから机と椅子を提供できる」「お祝いにオシャレな急須を贈りますよ」と続々集まってきたのだ。そもそもこの部屋だって、理解ある支援者の方がほぼ無償で提供してくれたのだった。

備品はいろんな持ち主から集まるから、色やデザインもバラバラだが、それがかえっていいと思っている。タダで備品をもらえる縁こそが、大きな大きな財産だ。そして、たくさんの人が自分を応援してくれるように働きかける力が試されるのが備品収集力だと言ってもいい。だから、私にとって、この小さなオフィスに集まった色も形もバラバラの備品の一つひとつが"勲章"なのだ。

オカネを使わず、縁をフル活用できるかどうかは、ベンチャー起業家にとって必須の資質かもしれない。人に上手に甘えられるタイプは強いと思う。もう一つ、大事だと思う資質は---。

「デパートでクレジットカード作れなかったの。前の会社にいたときはあり得ないってば。もう、新っ鮮な体験よね!」

変化を楽しめる力だ。隣でカラカラと笑っている相良は見事に切り替えているが、彼女が身をもって体験したのは、ベンチャー起業所属という身分がいかに社会的に信頼されないかという現実だ。大手証券会社にいた彼女には、ここに来てから経験することはまさに「新鮮」なこと尽くしなのだろう。ベンチャー起業に入るとカルチャーショックに悩む人は多いという。

会社員としてはやはり大企業しか経験してこなかった私自身も、正直、戸惑うこともあった。一番しんどかったのは、社長自らが企業活動に関わるすべての雑務をこなさなければならないことだ。総務部など管理系の部門がいかに膨大な仕事をしているのかが身にしみてわかり、あらためて感謝したくなる。

起業してからというもの、営業も広報も管理もすべてやるのだから仕事量は膨大になった。でも、心は不思議なくらい晴れ晴れとしている。

満たされている理由は、やりたいことを、それを一緒に実現したい仲間と共にできているからだろう。これまでは、「会社」は私にとって得体のしれないもので、「会社」に対して不満を抱えることもあった。でも、今は「会社」は「私自身」だ。自分自身が実現したいことを追求することが仕事であり、会社のカタチになる。

さあ、明日は、会社のロゴデザインを決める会議の予定だ。デザインは、いつか仕事をお願いしたいとずっと思っていた若手デザイナーに依頼した。思いを込めて名づけた「レオス・キャピタルワークス」という社名がどんな形になるのか、想像するだけで胸が高鳴ってきた。

少し油の染みたパンをかじりながら夢の味を噛みしめて、今日も夜が更けていく。

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