官々愕々 安倍政権が突き進む「戦時体制の確立」
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「特定秘密保護法案」というものをご存知だろうか。安全保障に関する秘密を保護するために公務員とその家族に身上調査を行い、秘密漏洩の罰則を大幅に引き上げ、さらには、公務員に秘密を教えてくれと働きかけた者も厳罰に処すという法律案だ。

この法案へのパブリックコメントが、9月3日から17日に行われた。官僚は、パブコメを「全く無駄な作業」「単なるアリバイ作り」だと考えている。理由は二つ。国民はバカだから彼らに聞いても意味がないという上から目線。もう一つは、都合の悪い内容を表で議論されるのをなるべく抑えたいという場合だ。今回は明らかに後者である。

単なるアリバイ作りだとしても、これだけ重要な法案について、パブコメ期間がわずか15日間というのは異例だ。しかも、与党である公明党の了解も得ずに実施されている。安倍政権の前のめりの姿勢が見て取れる。

この法案の問題点は、数え切れない。まず、保護しようとしている「特定秘密」の内容が極めて広範で不明確だ。もちろん、政権側は、防衛・外交などに「限定する」というが、「官僚のレトリック」でいかようにも拡大解釈できる書き方になるだろう。また、「特定秘密」を扱う公務員の「身上調査」を行うというのも心配だ。これにより、思想、政治活動などの調査が行われるだろう。家族や同棲者まで調査対象になるという。全ての役所が、米国のCIAのような組織になるのだろうか。

次に、罰則を懲役10年に引き上げるというが、官僚だった立場から言えば、これは全く無意味だ。個々の官僚が守りたいのは、出世の道と天下りを含む天国のような生活保障だ。それを失う行為はまずやらない。やるとすれば確信犯だから、10年にしても効果はないのだ。

情報漏洩の最大の理由は、役所では秘密を漏らしても厳しい懲戒がないからだ。私が産業再生機構で企業再生をやっていた時、経産省に情報を渡すとすぐにそれが外に漏れた。その後、経産省の幹部がその情報を使って裏金によるインサイダー取引を行った疑いが出たのに、私が徹底調査を主張すると逆に、当時の幹部に余計なことはしゃべるなと脅された。原子力規制庁の審議官が電力会社に秘密を漏らしたのに、堂々と出身省に戻ったのも記憶に新しい。要するに、秘密を守らなくてもよいという文化があるのだ。

最近では、TPPで厳重な守秘体制が敷かれた結果、国民にとって重要な情報が殆ど報道されなくなった。法改正なしでも秘密保持できるのがわかる。

本法案最大の問題は、秘密漏洩の教唆犯も処罰されることだろう。マスコミの取材活動が制限される可能性があり、由々しき問題だ。「マスコミの取材活動」は保護するという政府関係者もいるが、「マスコミ」と「取材活動」の定義は政府が決める。そうなれば、記者たちは政府に従順になるしかない。

最後に私が強調したいのは、本法案は自民党の憲法改正案とセットで見なければならないということである。改正案は、9条改正で国防軍を作り、21条改正で国民の「表現の自由」を「公益及び公の秩序」を理由に大幅に制限しようとしている。今回の法案は、憲法改正が難しいのでそれと同じことを法律でやってしまおうというもので、集団的自衛権を憲法改正なしでやろうというのと同じ流れだ。

安倍政権の目的は、戦争をするための独裁政権作り、言い換えれば、「戦時体制の確立」なのではないかと怖ろしくなってくる。この法案提出はやめて、まずは、国会で徹底的に議論してもらいたい。

『週刊現代』2013年10月5日号より

『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
定価:500円(税別)
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。