中国
アベノミクス効果とオリンピック招致で、日本は勝ち組の仲間入りを果たした! ~2013年「夏のダボス会議」レポート [その2]
李克強首相〔PHOTO〕gettyimages

[その1]はこちらをご覧ください。

午後になって、「リコノミクス」に関する討論会があった。リコノミクスとは、アベノミクスに対抗して、中国で経済改革を主導する李克強首相になぞらえて造った造語だ。中国語では、「李克強経済学」とも呼ぶ。

中国経済に関する討論会は、どこも立ち見が出るほどの盛況ぶりだ。だが「楽観論一色」だった前年までとは、ほど遠い雰囲気である。ロダンの「考える人」のようなポーズを取りながら聞いている欧米人が多いのだ。それだけ世界が、中国経済の行方に懐疑的になっているということだろう。

リコノミクスの課題となるシャドー・バンキング

李明献(広発銀行頭取): リコノミクスの大きなポイントになるのが、金利の自由化で、この流れは不可避だ。銀行側の準備はすでに整っていて、政府がいつゴーサインを出すかに注目している。ただ、2008年の金融危機が、いつまた再来しないとは限らない。中国は金融危機再来に対する備えをしておくべきだ。それでも、もし金融危機が襲来したら、中国の銀行の淘汰が行われるだろう。

洪崎(中国民生銀行頭取): 中国国内の預金金利の完全自由化は、2015年頃ではないかと見ている。リコノミクスの本質は、政府のコントロールを緩めて市場の役割を強化し、民間の競争力を高めることにある。その方針に沿った金利の完全自由化は、歓迎すべきことだ。ただ完全自由化したら、銀行間の金利戦争が起こり、各銀行への圧力が高まって、銀行同士のM&Aが進むだろう。

ウィリアム・ローデス(元シティ・バンク会長): 今回がすでに今年5回目の訪中で、中国の新政権の改革には大いに注目している。中国の課題は、25年前の輸出主導型の経済発展モデルから、内需主導型の経済発展モデルへと、いかに転換させていくかということに尽きる。過去5年間で負債が急増しており、シャドー・バンキング(影の銀行)の問題も深刻化している。

金利の自由化は確かに大事だが、中国政府は慎重に進めており、これは正しい選択だ。上海の自由貿易区と香港の人民元の取引自由化は、究極的には人民元の自由兌換を目指したものだ。ともあれ今後とも、中国経済のエンジンは銀行だ。6月の債務危機で、中国の銀行は、十分な資本と流動性が必要だという教訓を学んだ。

ロード・ターナー(前英国財政サービス局長): 中国は現在、2008年の4兆元の緊急財政支出の副作用からどう脱却するかという問題と、過剰債務問題をどう解決するかという二重苦を背負っている。

中国は特に、シャドー・バンキングの「理財産品」を、早く通常の銀行業務の枠組みに組み込まないといけない。また、銀行による投資は、自己資本中心で行うべきだ。私はイギリスの銀行規制委員会に務めていた関係で多くのケースを研究したが、過去にシャドー・バンキングの問題を抱えた国は、必ず金融危機に陥っている。

シャドー・バンキングとは、第2章で詳述するが、一言で言えば「もう一つの銀行」である。銀行の融資が、業績優良な大手国有企業に偏っているため、中小の民営企業は金利の高いシャドー・バンキングから融資を受ける。これらの資金源は、「理財商品」と呼ばれる一般国民から集めた投資ファンドである。このシャドー・バンキングに、習近平政権が突然メスを入れたため、6月に市場が大混乱に陥った。

米英の金融界の重鎮から、それぞれ直言が出されたところで、司会者が、「中国政府はシャドー・バンキング問題を積極果敢に解決せよと思う人は挙手してください」と促した。すると、会場の200人ほどの参加者のほとんどが挙手した。その光景を見て、民生銀行の洪崎頭取が発言した。

「6月に資金がショートしたのは、銀行が理財産品漬けになり、流動性のリスクを誰も予期していなかったからだ。あの時は、毎日傘を持ち歩いているような気分だった。特に国有銀行は、株の7割を政府が保有しているため、リスクに対する警戒感が薄い。今後の改革においては、政府は国有銀行と民営銀行を同等に扱うべきだ」

民生銀行は、中国最大の民間銀行である。それだけに、常に国有銀行が優先され、「国進民退」(国栄えて民滅ぶ)と揶揄される現状への怒りを吐露した発言だった。

討論の後、私はこの米英の重鎮を改めて訪ね、中国経済について専門家のホンネを探ってみた。以下は二人のコメントだ。

ローデス「短期的には、李克強首相が提起している上海の自由貿易特区に注目している。2ヵ月前に上海へ行ったが、準備は整っている印象を受けた。習近平主席も上海市党委書記の経験があり、トップ二人が上海をよく理解しているのはよいことだ。一方、長期的には、中国は社会保障制度のセーフティネットを整備すべきだ。そうしないと、いくら預金が増えても内需は拡大していかないだろう。また、十分な資本と流動性がなければ銀行は破綻するということを、中国は知るべきだ」

ターナー「2008年のアメリカ発の金融危機の際に、中国が4兆元の緊急財政支出を断行したのは、世界で中国だけ余裕があったからできたわけで、いまの中国にはそのような余力は残っていない。そうかといってこの先、投資ばかり増やしていくと、1990年代の日本や韓国のように、破綻の道を歩むことになるだろう。先ほども述べたが、シャドー・バンキングが跋扈したり、製造業者まで金融業に加わるような国は、過去にすべて破綻しているのだ。中国は今後、幾重もの危機に囲まれた狭い道を進んで行かねばならないということだ」

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