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シリーズ「世界の知性」に聞く第3回「DNAの二重らせん」を発見したノーベル賞科学者ジェームズ・ワトソンが登場!人類の重要な問題「老化を防ぐ方法」教えます

インタビュー/飯塚真紀子

 人はなぜ老いるのか? 老いを防ぐ術はあるのか? 人類が長い間頭を悩ませ、克服を夢見てきた問題だ。分子生物学の分野で20世紀最大の発見を成し遂げた男が今回、この難題について語り尽くす。

がんは克服できる

—先生はDNAという、20世紀で最も重要な分野での研究で、大きな発見をしました。では、21世紀に最も大事な科学のテーマとなるのは何でしょうか?

ワトソン 一つは脳の機能です。記憶がどのように脳に保存されているのかまだ分かっていません。脳には「海馬」という領域があり、記憶がまずここで形成されることは分かっています。しかし、海馬に記憶が保存されているとは考えにくい。では、一体どこが使われているのか、何がそれを統合しているのか。こういった謎の解明には100年単位の時間がかかるでしょう。

 人間の脳は非常に複雑な作りをしているため、これまでは代わりに脳の小さなハエの記憶を研究してきました。そのハエの研究においてさえ、まだすべては理解できていない状況です。しかし、これに関しては5~10年のうちには大きな前進があるかもしれません。

 そして記憶を含めた脳の問題は、もう一つの将来の重要課題である「老化」とも密接にかかわっています。

—高齢化が進んでいる日本ではいま、老いとどう向き合うかということが課題となっています。「老化」や「寿命」というのは、将来的には遅らせることができるのでしょうか?

ワトソン それは難しい問題です。長生きすると脳が機能しなくなり、アルツハイマー病に代表される認知症が現れます。アメリカ人を例にとれば、90歳の人々の半数は、何らかの認知症を抱えています。老化や寿命の遅延は、いかに認知症の発症を先延ばしにできるかが鍵となります。欧米には認知症を研究する資金はあるのですが、残念ながらまだ多くの結果が出ていないのが現状です。

—いまはどの程度まで分かっているのですか?

ワトソン いま、脳の老化について唯一の糸口となっているのは、「運動をする人はしない人に比べて認知症を発症する人が若干少ない」ということです。運動をする人はまた、がんを発症する割合も約30%少なく、ある種の糖尿病になる可能性も少ないことがわかってきています。つまり、病気の多くは運動をすることによって発症が遅延される可能性があるのです。

 また、糖尿病の治療薬はアルツハイマー病の発症を遅延するという研究報告もあるため、うまくいけば脳の機能を高い状態に維持するための、最初の薬になるかもしれません。