本/教養

ブルーバックス
『新薬に挑んだ日本人科学者たち』
世界の患者を救った創薬の物語
塚崎朝子=著

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新しい薬を創る「創薬」。

 日本人は世界に誇れる薬をいくつも送り出しているが、その事実や、開発までの舞台裏は、あまり知られていない。スタチン、エイズ治療薬、アルツハイマー病治療薬、がんの薬、免疫抑制薬、抗体医薬など、日本人研究者による画期的な創薬は数多い。その開発までの苦闘と、創意工夫の物語。

はじめに

 人類が病から救われて命を永らえられるようになり、今日の繁栄を築いている理由の一つに、医学の進歩があり、なかでも、薬の力は大きい。「あの時代にあの薬があれば」「この薬があったから救われた」ということは少なからずある。時に歴史を変えるほどの影響力を秘めているのが、薬である。

 薬の候補物質は、地中から、海洋から、そして実験室から、日々あまた生まれる。研究開発者たちが、それらをふるいにかけて選別し、ヒトにおける有効性を高めながら毒性を弱め、薬として飼い馴らす。そのために、膨大な歳月と資金が費やされ、たゆまぬ研究開発が重ねられる──こうした営みの結晶として、近年、日本人が世界に誇れる薬をいくつも送り出していることは、意外に知られていない。

 すべての薬には副作用があり、期待される薬効以上に強く出てしまう人もいる。基本的に薬とは生体にとっては〝毒〟でもあり、それをうまく使いこなすことで恩恵としているからである。そこには、研究開発者たちの錬金術にも似た匠の技がある。

 かつては〝宝探し〟のような地道な創薬によるしかなかったが、21世紀を迎えてからは、分子生物学やゲノム科学の成果を駆使して精度を高めた創薬方法も試みられている。そこでは、日本発のiPS細胞(人工多能性幹細胞)も大きな力を発揮できると見込まれている。また、免疫の防御システムを生かした抗体医薬の研究も今や花盛りだ。これは19世紀末の北里柴三郎やベーリングのジフテリア・破傷風の血清療法に端を発するもので、日本のお家芸である免疫学も現代の創薬の基盤となっている。

 薬を「魔法の弾丸」にたとえたのは、ドイツの細菌学者エールリヒであり、20世紀はじめに秦佐八郎とともに開発した梅毒の特効薬をそう呼んだ。今の薬にはまだまだ限界があり、百発百中の魔弾とはなり得ていない。より効果的で、より安全な薬を目指した医学・薬学の営みに終わりはない。

 先人の歩んできた道にこそ、あさっての医療につながるヒントがあるはずだ。薬の元となる物質を探し当てたり、物質を薬に育て上げたりした人々に会い、その思いや創意工夫を聞き出し、書き留めておかなくてはならない。そうした物語を紡ぐことを目指し、本書が生まれた。

 もととなったのは、『メディカル朝日』誌の連載、「サムライたちのクスリ」である。専門家向けだったその内容を膨らませ、薬のエンドユーザーとなり得るすべての人、とりわけ、生命科学に関心のある一般読者にも読みやすくなるように言葉を足し、最新の情報を加えた。登場する薬には、あの人も使っているおなじみの薬もあれば、いつか使うかもしれない薬もある。

 創薬になじみのない読者のために、一般的な創薬の流れを説明する「解説」を巻末に加えた。創薬の知識がない方は、先に「解説」にお目通しいただけると、本文をより理解しやすくなるだろう。

 薬は、多くの人たちの知恵と力があわさって、世の中に送り出される。それにははるか及ばないながら、本書も、多くの方々のお力添えの結晶である。すべての皆さんに深謝を捧げたい。そして、目を通していただいた方が、何かに〝効いた〟と思っていただければ、私も薬の開発者たちの喜びに少しだけ近づくことができる。

著者 塚崎朝子(つかさき・あさこ)
ジャーナリスト。読売新聞記者を経て、医学・医療、科学・技術分野を中心に執筆多数。神奈川県立保健福祉大学非常勤講師。国際基督教大学教養学部理学科卒業、筑波大学大学院経営・政策科学研究科修士課程修了、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科修士課程修了。専門は医療政策学、医療管理学。著書に、『いつか罹る病気に備える本』(講談社ブルーバックス)などがある。
 
『新薬に挑んだ日本人科学者たち』
世界の患者を救った創薬の物語
塚崎朝子=著

発行年月日:2013/09/20
ページ数:256
シリーズ通巻番号:B1831

定価(税込):945円
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)