『戦士の休息』 - 映画を語る落合博満がスゴい!

レビュアー:内藤 順

 落合博満が、映画を語る。これだけでも十分に意外性があるのだが、そこで紹介されている映画がさらに意外なものであったから、二重の意味で驚いた。

 現役時代はオレ流を謳い、監督時代は日本シリーズで完全試合目前のピッチャーを降板させた男。そんな数々のエピソードから、どんな極論で煙に巻くのかと思いきや、ベタとも思えるような超定番作品ばかりが相並ぶ。紹介されているのは、三船敏郎からジブリ作品、『チキ・チキ・バン・バン』から『アベンジャーズ』まで。これらの作品をまるで野球帽をかぶった少年のように、嬉々として語るのだ。

「映画との付き合いは野球よりも長い」ーーそんな落合博満の嗜好性を簡単にまとめると、監督ではなく役者で映画を選び、その基準はカッコイイかどうか。時代の風雪に耐えてきた「偉大なるマンネリズム」をこよなく愛し、同じものを時間を置いて何度も見るといったところだろうか。

 たとえばマカロニ・ウェスタンに代表されるような勧善懲悪、『男はつらいよ』に見られるような予定調和、これらの魅力を以下のように語る。

”知っている俳優が出演して、ほぼハッピーエンドになるのだろうという、私が抱いているハリウッド作品に対する安心感があるのだ。これが老舗、本場、あるいは歴史や伝統の醸し出す魅力なのだろう。”

”老舗とは、顧客や世間の趣向の変化にも動じず、「時代は巡り、また元に戻るんだ」と意地を張って同じ形の商売を続けるものだ。だからこそ、また時代が戻ってきた時に、その歴史と伝統が醸し出す安心感に人が集まるものではないか。私自身は、こういう部分での”保守的感覚”は大いに必要だと考えている人間だ。”

 要は、ワンパターンな展開を「老舗の安心感」へと変換し、映画というエンターテイメントが持つ最大の魅力と捉えているのである。「偉大なるマンネリズムを追求することこそが、プロフェッショナルの仕事」とまで言い切れるのは、常にタイトル争いのメンバーに名を連ね、「またあいつか」などと言われながらも、三度に渡り三冠王を取った男ならではの台詞か。

 一方で本書は、個性的な映画ガイドであると同時に、落合博満の野球観に触れられるというのも魅力の一つと言えるだろう。

 ヒーローのオールスターもの映画、その代表例とされる『アベンジャーズ』。この映画が上手くいったのは、なぜ今この時期に集結するのかという理由付けが明確であったからだという。そこから話は、昨今では新鮮味がないと批判も多い、プロ野球オールスター・ゲームの話へと展開する。どんな世界にも急速に発展する時期や停滞する時期があり、今ここでオールスターに手を加えるのは得策ではないというのが、落合の持論だ。