HONZ現代ビジネス
2013年09月14日(土)

『名誉の殺人 母、姉妹、娘を手にかけた男たち』

upperline

レビュアー:土屋 敦

「名誉の殺人」とは、結婚前に肉体関係を持った女性をその家族が殺し、一族を「名誉を回復する」こと。中東や南アジアなどで行われている。

 こう書けば、『生きながら火に焼かれて』という本を思い出すHONZ読者も多いかもしれない。ヨルダン川西岸地区の若い女性が恋人と肉体関係を持ったため、義兄が彼女にガソリンをかけ、火をつけて殺そうとするが、なんとか助けだされた体験を、火をつけられた女性自身の言葉で綴ったノンフィクションだ。この作品は十分に衝撃的だったが、それでも読み手としては救いのようなものがあった。特異な社会の酷い男たちが女性を苦しめ、虐待し、殺している、と考え、単純にそれを憎み、憤ることで、気持ちを少しは落ち着けることができたからだ。

 しかし主にトルコでの事例を扱った本書の読後はもっと複雑だ。なぜなら本書は、名誉の殺人を行った側、すなわち、かわいがっていた妹や娘、愛していた母親を手にかけ、刑務所に収監されている男たちを取材し、構成されているからだ。そこには愛するものを殺した側の苦しみと、殺さなければ一族皆が社会的に抹殺される共同体社会の現実、そもそもまったく罪のない人達が不幸になっていくあまりの理不尽さが、これでもか、と描かれている。しかも女性たちが「罪」(もし誰かと恋に落ちることを罪というのならば、だが)を犯したとは到底思えない事例も多数あるのだ。

 例えば14歳になるクルド人の少女ヌランは、イスタンブールのバスターミナルで金をだまし取られたうえにレイプされた。その後、ヌランの父はワイヤーで彼女の首を絞めて殺した。

 実はヌランの父は一週間にわたり礼拝をし、コーランを読み、赤ん坊のように泣き続けた。しかし、一族の名誉を守るために彼女を殺すことを望む多くの親族たちに監視された状況で、他の決断はありえなかったのだ。

 この話を著者に伝えたのは、ヌランともっとも仲が良かった兄ハルンである。父と長兄、叔父が終身刑となり、家族は崩壊した。靴磨きでなんとか生計を立てている青年ハルンは自分が妹を殺したと考えている。

 同じくイスタンブール。姉が売春婦であるという噂を流され、イリヤスとその家族は共同体で孤立した。侮蔑の言葉が吐かれ、夜通し家には石が投げ込まれた。無言の圧力がイリヤスを襲い、彼はとうとう姉を絞殺した。そして一晩中泣いた。そして死後の検死で姉は処女であることがわかった。

 しかし姉の死後に彼らの名誉が回復されることはなかった。これまで姉を殺すべきだと無言の圧力をかけていた住民たちは、姉の死を大げさに悲しみ、イリヤスを罵倒した。その一方で、姉が処女だったという検死結果に関しては、「イリヤスが検死官を買収して嘘の報告書を作らせた」と残された家族を責め立てた。イリヤスの妻は、獄内のイリアスに離婚を求める訴訟を起こしている。

次ページ  非道な男たちも次々に登場する…
1 2 3 次へ

このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
関連記事


underline
アクセスランキング
1時間
24時間
トレンドウォッチ
編集部お薦め記事