福島県双葉郡に中高一貫校新設案
協議会が「教育復興ビジョン」を文科相に提出[教育]

教育復興ビジョンについて記者会見する双葉郡教育長会長の武内敏英・大熊町教育長(左)=文部科学省で7月31日

 東京電力福島第1原発事故で全住民が避難した福島県双葉郡8町村の教育長らでつくる「福島県双葉郡教育復興に関する協議会」(座長・中田スウラ福島大教授)は7月31日、同郡南部に2015年度を目標に県立の中高一貫校を新設することを柱にした教育復興ビジョンを策定し、下村博文文部科学相に提出した。8町村の教育長は今後、住民らに意見を聞きながら具体的な検討を進めるが、一貫校の新設で現存する県立高5校は休校となる見通しで、住民には不安の声も聞かれる。避難先からの帰還が進まない中、地元教育界の苦悩は続く。

 協議会は8町村の教育長をメンバーに、県、文科省、復興庁などが協力委員として参加し、昨年12月に設立。復興ビジョンは同日、文科省で開かれた第8回会合で、全会一致で了承された。

 中高一貫校は部活動などの集団活動ができる規模を想定した併設型で、中学は各学年2クラス、高校は同3クラス。入学方法などは今後検討するが、中学は双葉郡の生徒限定で高校は全国から募集することを想定している。

 大学とも連携し、教員の派遣を要請するほか、大学入試についても推薦枠の設定など、配慮を求める。将来的には、福島大の付属校にすることも視野に入れる。設置場所は空き校舎など施設の確保▽放射線量を含む保護者の理解▽通学手段の確保――の3条件を満たすことを前提に、広野、楢葉、川内各町村内の中から、首長間の協議で決める。

 古里意識を持つ子を育てようと、カリキュラムに課題解決型の授業や海外留学、ふるさと科の創設を盛り込み、協議会は「双葉郡の復興を担い、日本、世界に送り出せる人材育成を目指す」とアピールする。

 こうした取り組みを急ぐ背景には、原発事故の影響で避難生活が長期化し、地元住民の帰還が望めない中、自治体各自での取り組みでは限界があるという事情がある。原発事故で双葉郡の全8町村の住民は県内外に避難し、郡内の小中学生は震災前の7943人から1142人(13年4月)に激減した。双葉郡教育長会長の武内敏英・大熊町教育長は協議会終了後の記者会見で、「避難先で小中学校を開校しても子供が戻って来ない。各自治体の努力では限界だ」と訴えた。

 教育復興への思いが込められたビジョンだが、実現にはいくつかの懸念材料がある。その一つが、既存の5高校の今後だ。

県立高5校は休校の見通し

 原発事故で校舎が使えない高校は現在、他の教育施設や仮設校舎でサテライト校として運営されている。中高一貫校が設立された場合、いわき市内などでサテライト校となっている双葉、浪江、浪江津島、富岡、双葉翔陽の県立5高校について、協議会に協力委員として出席した杉昭重・県教育長は会合後、毎日新聞の取材に「(既存校と中高一貫校を)併存させることはない」と述べた。一貫校設置に伴い、既存校の募集は停止され、在校生の卒業をもって休校となる見通しだ。子供の数が将来的に増加する見通しが立たない以上、事実上の「廃校」につながる可能性は否定できない。

 今年創立90年を迎える県立双葉高校(刈屋俊樹校長)は、来年度に生徒が集まるかも危ぶまれる。生徒数は65人と震災前の約7分の1になっている。関係者の間でも「大人の都合で何度も転校させられ、やっと落ち着いたのに」「もっと早く独自の仮設校舎を設けて維持できなかったのか」など動揺や不満が広がる。

 原発事故で同校は11年度、県内4カ所のサテライト校に分かれ、昨春からいわき市のいわき明星大構内に集約。大学研究室と連携した学習が特徴で、6月には存続を願う生徒たちが市内の清掃や海岸植樹を行うボランティア部も創設した。7月29日、いわき市で開いた14年度の受験生への体験授業には10人が出席したが、刈屋校長は「子どものために全力を尽くすが、入学者が減る可能性もある」と不安を募らせる。

 長男が同校3年で寮生活を送り、自身も同校卒業生の父親(49)は「国や県は、子どもたちを犠牲にし、避難者を振り回してきた。その代償が伝統ある双高(ふたこう)消滅かと思うとやり切れない」と憤り「新しい生活に慣れ、部活動で友達が増えると、子どもはそこが居場所になる。中高一貫校もよほど魅力のあるカリキュラムや部活動、進学・就職先がないと、生徒は集まらないのでは」と疑問視した。

 さらに、中高一貫校の方式と地元の将来を巡っては、難しい課題が残されている。既に住民の帰還が可能となった広野町や川内村では、それぞれの小中学校を開設しても子育て世代の帰還が進まず、地元には「一貫校で既存の学校と児童・生徒の奪い合いになる」との懸念もある。

 ビジョンでは、同じ設置者で近接した立地に位置し、6年間の一貫したカリキュラムが組める「併設型」の一貫校を求めた。避難者が多いいわき市を中心に、子どもや保護者が、同市内の学校でなく双葉郡の学校を選ぶよう促すためだ。一方、県教委の意向は異なる。中学校に関しては、新入生が一貫校に集中することを危惧し、「併設型」よりも柔軟性のある「連携型」も含めて検討する必要がある、という立場だ。

 一貫校の設置場所もデリケートな問題だ。公共交通機関がないことに悩む川内村では、村立川内中学校の生徒は震災前の3分の1に。一貫校が他の自治体に設置されれば、帰村しない流れが加速すると危惧する同中の高浜俊彦校長は「復興の進み方も違うので、自治体間であつれきが生じるのではないか」と話す。

 文科省が発表した、東日本大震災で転園・転校した子供の状況(今年5月1日時点)によると、福島県の子供は1万6850人が依然として県内外に転校・転園したままだ。

 今後、双葉地区の子供達が一気に帰還するような起死回生策は考えにくい。それでも「双葉郡の教育」を絶滅させるわけにはいかない、と奔走する教育長たちの姿には、悲壮感すら漂う。武内教育長は会見で「できない理由を探すのではなく、前例主義を超えないといけない」と危機感をにじませていた。

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