「オリンピック招致で外国メディアの的となった汚染水問題 IAEAの管理になる前に早急の取り組みを!」ほか

【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol020 目次】
―第1部― インテリジェンスレポート
 ■分析メモ No.47「東京オリンピック開催決定が今後の日本外交に与える影響」
 ■分析メモ No.48「サンクトペテルブルグ日露首脳会談」
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート No.60『凶悪――ある死刑囚の告発』
 ■読書ノート No.61『ウラジーミル・プーチン――現実主義者の対中・対日戦略』
 ■読書ノート No.62『岩波 イスラーム辞典』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 今後のラジオ出演、講演会などの日程

伊藤: こちらのニュースをご紹介します。共同通信から。「オリンピック東京招致に向け選手らがアピール」。

アルゼンチンを訪れている体操の田中理恵選手らが2020年オリンピックの東京招致に向けて選手本位のオリンピック開催をアピールしました。ブエノスアイレスで開かれた記者会見で田中選手は「スポーツの普及、発展のために快適な環境を届けることを約束する」と英語でスピーチしました。また、女子マラソンのメダリスト有森裕子さんは、指導者を発展途上国に派遣する日本政府主導の事業を紹介しました。

一方、質疑応答では東京電力福島第一発電所の汚染水問題についての質問が前の日に続いて出ましたが、1984年のロサンゼルス大会にレスリングで出場した馳 浩(はせ・ひろし)衆議院議員は「健康にも環境にも問題ないと明らかになっている。政府が責任を持って対応すると決まっている」と説明しました。

(略)

佐藤: 福島第一原発の汚染水問題が会見で2日続けて大きく取り上げられるようになりました。外国でのその報道を見ていると、扱いが大きいんですよ。日本で考えているのと国際社会での受け止めにそうとうギャップがあるんですよね。(略) 汚染水を巡る議論というのは、日本の報道ではちょっと過小評価されているような感じがします。

伊藤: はい。汚染水問題も非常に大きな問題ですよね。

佐藤: これから非常に重要な問題になってくると思います。

伊藤: 早く解決してほしいです。

佐藤: 私は率直に言って、「東京電力はけしからん」といじめる段階は過ぎたと思うんです。

伊藤: 終わりましたよね。東京電力を非難している間に、政府が早く手を打ってほしいと思います。

佐藤: 福島第一原発だけは、もう東京電力から切り離してしまったほうがいいと思う。それで、国が直接管理したほうがいいと思う。私がいちばん心配しているのは、汚染水問題がどんどん続いていて、どうも有効な手が打てないようだということになる、あるいは政府が発表しているデータが実はちょっと違っていたというような話が出てくると、IAEA(国際原子力機関)の直接管理にするという話が出てくると思うんですよ。

これは一種の「占領」ですよね。国家主権にも影響があるような問題に発展しかねないと思うんです。ですから、この問題は非常に深刻です。(略)

いわき市久之浜海岸の様子--〔PHOTO〕gettyimages

それから国際法で海洋汚染防止条約というものがあるんですね。日本も加盟しています。これは放射性物質を海にわざと捨てたら罰せられるという法律なんですね。しかも船や飛行機で持っていって公海上、要するに12海里より遠くに捨てるということを主に想定しているわけです。

日本の外務省の条約屋さんたちというのは、なんとしても自分たちの責任を逃れることを考えますから、いや、国際法違反にはならない、大丈夫だと考えているわけです。

どうしてかというと、わざとやっているんじゃない。抑えようと思っても抑えられないんだ。それに領海内に流れ出たのだ──こういう理屈ですが、しかし、海洋汚染防止条約というのは、「海での汚染を防止する」という大きな目的のためにつくったもので、最初から自分の国の領海内にそういったものを流す国があると想定していないわけです。だから公海に持っていくと想定した。

それから、海には壁があるわけではないですから、12海里にしてもその先の海とくっついているんで、そうなると、日本が原子力犯罪国家だと非難される危険性もあるわけですよ。そのあたり全部を踏まえて、早いところ国が前面に出てきてこの問題に当たらないといけないと思うんです。特に外務省が重要。というのは、国際法的な問題が出てくるから。

伊藤: IAEA管理になるというのは、そうとう大変なことなんですね。

佐藤: 本当にそうなったら大変ですよ。今までそんな例はないですからね。これは誰も言っていないんですが、私はそうなることを心配しているんです。そうなると日本は国際的にすごく孤立しますから。

伊藤: 一刻も早く政府に手を打ってもらいたい。

佐藤: このオリンピック招致が終わったら、すぐに汚染水問題、福島第一原発問題に切り替えてほしいんですよ。

伊藤: 本当にそうです。素人目に見ても、あんな汚染水がどんどん増えていく一方で、置く所だって絶対なくなるし、大変な状況だとわかっているわけですからね。なんで今まで政府はよく手を出さなかったなと思いますね。

佐藤: いや、ただもう気づいたところから直していくしかないですよ。とにかく、これはなんとかしなくてはいけないということです。

伊藤: 一方、G20。そもそもG20というのは、経済について話し合う場であるということなんですが、今回はポイントが「シリア」ということになっていますね。

佐藤: そうです。それから経済と政治は密接に結びついていますから。たとえば、サミットも最初ロシアが入らないでG7でやっていたときというのは、基本は「経済」ということだったんですよ。西側の経済協調をしていこうということだったんですが、そのうちにだんだん「政治」を扱うようになってきた。経済を扱う組織をつくっても、必ず政治を扱うようになります。

伊藤: これは本当にリンクというか、そもそもくっついているものなんですね。

佐藤: そうです。切り離すことができないものなんです。

伊藤: 今回のG20ですけれど、日本も初めて中国の習近平さん(国家主席)と直接会って握手をして、ちょっと短い話をしたり、いろいろ動きはあったみたいですね。

佐藤: 特にいちばん大きい動きというのは、ロシアとの会談ですね。

伊藤: 日露。

佐藤: 日露首脳会談です。これは大成功でした。

伊藤: あ、大成功でしたか。

佐藤: はい。これは報道が、率直に言ってずれていると思うんです。領土問題のところは引き分けを狙っていくということで、今までと変わらないんですね。いちばんのポイントは、これはロシア大統領府の公式ホームページにロシア語で出ているんですが、それを読むとよくわかるんですけれど、(略) プーチン大統領が安倍さんに、「あなたのイニシアチブで『2プラス2(外務・防衛担当閣僚の安全保障協議委員会)』が11月の初めに行われることを歓迎する」ということで、「あなたのイニシアチブで」とプーチンが言ったことがいちばんのポイントなんです。

どういうことかというと、今、元CIA職員のスノーデンさんの亡命をロシアが受け入れたということで、アメリカは最初予定されていた米露首脳会談をキャンセルしたわけですよね。それから、シリアへの軍事攻撃の問題を巡ってロシアとアメリカが激しく対立している。そういう状況で、日本というのはアメリカの同盟国であって、特に安倍さんはアメリカとの関係を重視するという方針を表明しているにもかかわらず、今、ロシアと外交だけではなくて安保のほうの協力で防衛省まで巻き込んだ協力をするということは、今までこれはやっていないですからね、レベルをすごく上げるということなんですよ。

G20での安倍首相とプーチン大統領---〔PHOTO〕gettyimages

「これはアメリカとの関係で、なかなか大変でしょう。それをあなたがやってくれた」と、それを歓迎するという意味なんですよ。

伊藤: それだけロシアにとっては日本が大事になってきたということですか。

佐藤: 大事になっています。

伊藤: それはどうして?

佐藤: 中国に対する牽制が非常に大きいのと、今まではアメリカとの関係において日本はアメリカの方針を完全に支持するということであるにもかかわらず、どうも安倍さんはちょっと違うようだと。これが、本当にちょっと違うのか、あるいはあまり深く考えないで日露関係を進めないといけないという至上命題に沿って外務省は動いていて全体の調整を考えていないだけなのか、そこはよくわからないです。しかし、今のところロシアが美しき誤解をしていることは間違いないです。(略)それは、「あなたのイニシアチブで」と言っていることなんですよ。

伊藤: 安倍さんのイニシアチブでということがすごく大きな意味を持っているんですね。

佐藤: 「あなたのイニシアチブで」ということは、反対している人がいるということですから。「反対している人がいるのを、あなたが押し切ったんでしょ」と言っているんです。というのは、ロシアの外務省であるか、ロシアの対外情報庁、インテリジェンス機関が、そういう報告、そういう見立てをプーチンに上げているということですよ。(略) だから、大いなる誤解が起きているんです。ただ、それは美しき誤解で、これで北方領土問題が動く可能性がある。

あともうひとつ、福島第一原発の汚染水の封じ込めでも、今まで日本はロシアの技術、ロシアのノウハウを使っていないんですよ。ロシアはチェルノーブル(チェルノブイリ)の放射性物質の拡散を封じ込めることができたでしょ。

伊藤: はい。コンクリートで封じ込めていますね。

佐藤: そういうやり方を知っているということなんで、ロシアの持っているノウハウはあるわけなんですよ。

伊藤: これをちょっと借りてくる。

佐藤: それは本格的な利用をしたほうがいい。要するに、ロシアに対する警戒感を持って、原発をロシアに見せるのはよくないんじゃないかという感覚というのは捨てて、これはもうなんでもいいからとにかく封じ込めることができるどんな力でも借りる。

今、日本はフランスの力は使っているんです。新しい「ALPS(アルプス)」という機械をつくったんですが、これはフランスのアレバ社のものを使ってみたのだけれど、これがすぐに詰まって動かなくなってしまったので、今度は新しいものを動かすというわけです。ロシアはロシアで別系統の技術を開発していますから、それをきちんと使うということだと思います。たとえば今、民間で買える線量計はほとんどがロシア製でしょ。

伊藤: あ、あれほとんどロシア製なんですか。

佐藤: そうです。やはりロシアはチェルノーブルのことがあって以降、一般の人が使うような線量計をみな持っている。ということは、ロシア人はけっこう警戒心が強いということなんですよね。ロシアにも原発がたくさんありますから。だから、周辺の人たちは線量計を持っていて、政府がなんと言っていようが自分たちは自分たちでチェックするというのがロシア人なんですよ。

伊藤: 自分の身は自分で守らなきゃいけないんですね。

佐藤: 日本で売られている1万円代の線量計はだいたいロシア製ですよ。というのは、それだけ草の根、すそ野がありますから。封じ込め技術など、日本が聞いてこないからロシアは話さないというものがたくさんあると思います。