オリンピック
東京五輪決定で安倍政権の「再評価」と対日戦略の「見直し」を迫られる中国
[PHOTO] Getty Images

「仲秋の名月」直前なのに、なかなか名月を欣賞できないスモッグ空の北京へ来ている。

北京時間の9月8日明け方、2020年オリンピックの開催地が発表される時間帯に合わせてスマートフォンの目覚まし時計をかけていたら、LINEの通知音で目が覚めた。見ると、送り主は安倍首相ではないか。自身のガッツポーズ写真と共に、歓喜のメッセージを伝えてきた。

〈 安倍晋三です。朝早くにすみません。ブエノスアイレスより速報です。つい先ほど、東京が2020年の五輪開催地に選ばれました!(親指を立てるマーク) 本当にうれしい。この心からの喜びを、皆さんとともに、分かち合いたいと思います。この勝利は、国民が一つになった結果。熱い思いが、世界に伝わったのだと思います。この勢いで、国民が一つになって、2020年東京オリンピックを必ずや成功させましょう! 〉

普段は散々、政権を批判しているくせに、異国の地に来ている身にとっては、どれほど嬉しい便りだったか。思えば、昨年まで北京で生活していた時、半年に一度、一時帰国すると、東京の空港に降り立ったとたんに、中国外交部からのショートメールが届いたものだ。

「日本の楽しい旅をお過ごしください。万一のことがあれば、東京の中国領事館の直通番号は・・・」。日本にもこんなサービスがあればいいのにと思っていたら、今回は安倍首相自ら、オリンピックの招致成功を教えてくれたというわけだ。

その後、のこのこと起き出してテレビのスイッチを入れると、中国中央TVのアナウンサーが、ちょっと仏頂面をして、ブエノスアイレスの女性特派員と中継を結んで、「日本が勝利した」という事実を淡々と伝えていた。東京、マドリード、イスタンブールの悲喜こもごもの表情を、ほぼ同等に伝えていたから、いろいろと気を遣ったのかもしれない。

日本のオリンピック招致成功は東アジア全体にとっての慶事

翌9月9日、中国最大の『人民日報』傘下の国際ニュース紙『環球時報』は、「東京開催のオリンピックを、中国人は楽観視していればよい」と題した社説を載せた。喜びにまかせて、その全文を一気に訳してみた。

〈 日本が6億ドル以上の宣伝費をつぎ込み、4億ドルも出せないマドリードとイスタンブールを圧倒した。いまや国交正常化40数年で最悪の中日関係ではあるけれども、われわれはやはり日本人に祝福を述べ、7年間の準備が周到に進むことを願っている。

誰もが一様に述べているように、今回の日本の成功は政治的意義を持つ。この成功によって日本社会は自信を回復し、国民は鼓舞され、経済が再度、飛躍するというものだ。

もしオリンピックが日本人の態度を変えることができると考えているなら、それは楽観的すぎるというものだ。周知のように、日本が「失われた20年」を過ごしている間に、中国経済が台頭し、中国経済の強化がまた日本人の自信を喪失させた。日本社会の右傾化は、自信のなさと密接に関係しており、中国にやたら歯向かって見せるのも、まさにこの喪失感が背景としてあるのだ。

オリンピック招致の成功は、日本社会に、久しくなかった楽観的思考をもたらした。これは北東アジア全体にとっての慶事だ。今世紀に入ってから、日本は、歴史問題や海上の問題で、周辺国から四面楚歌にされている。そんな中、オリンピックが日本人に自制心を植え付け、周辺国への威嚇とは他の方向に向かうことだろう。つまり、今後7年間、日本はおとなしくしているということだ。

強調しておきたいのは、日本の第二次世界大戦に対する歴史認識が、世界標準とは大きくかけ離れているということだ。もしも今後、日本政府が靖国参拝を助長したりすれば、中国と韓国は世界の世論を喚起し、日本はオリンピックにふさわしい国ではないと吹聴して回ることだろう。

日本の釣魚島(尖閣諸島)問題での極端な態度は、同地域に軍事的緊張をもたらしている。東京オリンピックの開催時までに、日本は国連安保理を通じて、中日の軍事摩擦を回避し、東シナ海の平和と安定を保持するべきである。もし日本の態度がオリンピック開催国にふさわしいものになれば、それは東アジアにとっても利のあることなのだ。

われわれは、日本が中国と良心的な競争を行うことを切に望む。もし日本が「二度目の台頭」を果たせるなら、それは中国にとって戦略的脅威ではない。それどころか東アジア経済全体が活力を得て、国家間の提携を促すだろう。中国から言えば、日本の強大化はおのずと限界があるので、日本の台頭は恐れていない。恐れているのはむしろ、日本が他国に嫉妬したり、他国の台頭を恐れたりして、おかしな動きを見せることなのだ。

地理的にも、日本でオリンピックを行うことは、中国人にとってメリットが大きい。ほとんど時差なくテレビ中継を見られるし、日本に競技を見に行くのも簡単だ。そのため、昨日、日本の招致成功のニュース速報が出た時、中国人の東京が負ければいいという感情は消え去っていた。

以前、北京オリンピックが決まった時、日本政府と多くの友好組織は、祝賀し、支持してくれた。当時の中日関係は、現在よりはるかに良好だった。一部の日本の右翼組織は、中国を撹乱しようとして、日本での聖火リレーを邪魔した。現在は中日関係は行き詰まっているが、今後数年間、中国人が東京オリンピックの成功を支持する大人の態度を取ることを、日本社会は目の当たりにするだろう。

日本は、自ら「悟る」ことが必要だ。すなわち、周辺諸国と面倒なことを引き起こすべきではないということだ。このことを日本人が悟れば、日本社会が向上する7年となり、東アジアが安定する7年となるだろう。それこそ中国人が待ち望んでいることなのだ。 〉

この社説に、中国人の複雑な感情が凝縮されている。中国が日本の再度の台頭を望んでいるはずはないのだが、同時に、オリンピックが決まったのだから、安倍政権は右翼的言動を避けてほしいというホンネが窺える。

北京で様々な人士と会っていても、中国人の「徒労感」を感じる。一年前はこの地で多くの人が、野田政権の「尖閣国有化」に対して、激しい怒りを吐露していた。だがいまや、いろんな意味で中国経済が汲々とし、中国人は隣国のことなど考える余裕がなくなってきている。「あっそう、東京でオリンピックやるんだ」で、その後が続かないのだ。実際、尖閣国有化一周年にあたる9月11日に、日本への大規模な抗議活動は、中国全土で起こらなかった。

だが、一般の国民が日本に対して無関心になりつつあるとはいえ、習近平政権は、そうは言ってはいられない。G20サミットの後、安倍首相はアルゼンチンへ向かったが、習近平主席は、カザフスタン、ウズベキスタンなどを歴訪した。そして帰国するやいなや、安倍政権に対する「再評価」を始めたという。

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