「講座:ビジネスに役立つ世界経済」
【第17回】 英連邦の資源国の株価が堅調な理由

オーストラリア準備銀行 〔PHOTO〕gettyimages

8月は、米国による「出口政策」実施の思惑から、新興経済圏の株価が軒並み下落した。8月の世界の主要株価指数のパフォーマンスをみると、トルコ(-9.5%)、タイ(-9.1%)、インドネシア(-9.0%)、フィリピン(-8.5%)、シンガポール(-6.0%)がワースト5となっている(現地通貨ベース、前月比)。また、その少し上にインド(-3.8%)、メキシコ(-3.3%)、マレーシア(-2.5%)が位置している(インド、メキシコは年初からの株価パフォーマンスも極めて悪い)。

このうち、シンガポールは例外だが、これらの国の共通点は、「経常収支赤字の新興国」という点である。経常収支が赤字ということは、資本収支が黒字で海外から資本が流入している国であるということ、そして、国内の貯蓄-投資バランスをみると投資過剰(国内の過小貯蓄)であることを意味しているので、これまで、対外資本による国内投資を積極的に行うことによって高成長を享受してきた国ということになる。

米国の出口政策が、対外資本の収縮につながると解釈されれば、リスク回避の動きからこれらの国から真っ先に資本が流れていくのはある意味当然である。さらに、このような新興国からの資本逃避が新興国の経済成長率を押し下げるとすれば、資源価格が低下するため、資源輸出への依存度が高い資源国の経済の先行きにも陰りが見え始めるという考え方も至極まっとうであり、資源国の株価や通貨が下落すると考えるのもまた、投資家としては合理的な行動であろう。

英連邦に属するの資源国の共通点

以上のようなロジックから米国での出口政策の思惑を起点として世界的な株価調整局面が実現したのが8月だったのだが、資源国の株式市場の中には、このような市場の流れに必ずしも巻き込まれず、「逆行高」を演じた国もあった点に注意する必要がある。それは、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドである。

8月の株価指数をみると、南アフリカは前月比+2.3%、オーストラリアは+1.6%であった。ニュージーランドは-0.2%と下げたが、2013年1月から8月までのパフォーマンスは+9.6%と資源国の中では極めて高いパフォーマンスを示している(ちなみに南アフリカは+7.6%、オーストラリアは+10.5%)。年初から新興経済圏・資源国の株価が軒並み下落する中、これらの国々の良好なパフォーマンスは注目に値する(最近に限定すれば、カナダの株価も堅調であることを付記しておく)。

これらの資源国の特徴は何だろうか。それは、いずれも英国連邦に属していることであるが、単に「英国連邦に属している」ことが株価堅調の理由ではない。株価堅調の大きな理由は、いずれもインフレ目標政策を導入して以降、経済政策運営、特に金融政策運営がうまくいっている点であると考える。特に、株価は、金融政策に左右される側面が強い。いわゆる「流動性」の供給を適切に行うことができる仕組みを持った中央銀行の存在が、これらの英連邦に属する資源国の株価を堅調に推移させていると思われるのである。

もちろん、現在では、インフレ目標政策自体は、新興国を含む多くの国で採用されているが、その運営方法は必ずしも一貫しておらず、多くは本来のインフレ目標政策の意図から逸脱しているのが実情である。例えば、最近の新興国を取り巻く環境からインフレ目標政策が逸脱している理由を考えてみると以下のようになろう。

まず、何らかの外的なショックによって、自国の輸出(資源や安価な工業製品など)が減少する局面では、当然、自国のインフレ率が低下し始める。このインフレ率の低下に際して、インフレ目標政策下の中央銀行が採るべき政策は金融緩和である。この結果、マネタリーベース残高は増加し、金利が低下、これが通貨安をもたらすというのが、金融緩和の帰結である。

だが、前述のように、新興国の多くが、海外からの資金流入を梃子に国内投資を促進してきたため、これらの国にとって金利低下と通貨安は許容できないものとなる。むしろ、通貨防衛のための自国通貨買い・ドル売りの為替介入(この場合、介入のための自国通貨を国内金融市場から吸収することになるので不胎化しなければ事後的には金融引き締め要因となる、また、不胎化すれば、介入の効果が削減されてしまう)か、もしくは金融引締めが採用されることもありうる。

そのような場合、その国の株式市場は国内の「流動性」の収縮により下落するのは、ある意味当然である。現在では、インフレ目標政策は柔軟に運営すべきであるという意見が大勢であるが、このような政策を採ってしまうと、インフレ目標政策は事実上、放棄されたに等しい。

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