官々愕々 嘘だらけの汚染水「緊急」対策
福島原子力発電所のタンクから漏れ出た汚染水〔PHOTO〕gettyimages

9月3日、東京電力福島第一原子力発電所の汚染水対策に国が470億円の国費投入を決めた。しかし、この決定は、嘘とまやかしの塊だ。

東電への税金投入の前に破綻処理で株主や銀行の責任を問えば、4兆円は国民が得をするという話は、8月31日号で書いた。

これに対して、甘利経済財政担当大臣は、誰の責任かを議論する余裕はない、目前の危機に対応することが先だ、と述べて「緊急性」を強調した。実は、ここが政府の狙い目だ。汚染水対策を急ぐべきは当然だが、政府が言う「緊急性」の本当の意味はそこにはない。今、何故急ぐのか。

そこにオリンピック誘致対策があるのは明らかだ。福島など二の次、三の次で、原発の再稼動と輸出の方が大事というのが安倍政権の方針だが、予想外に海外メディアが「騒いだ」ので、オリンピックに響いては大変と慌てて対策を決めた。しかし、急いだ本当の理由はもっと別のところにある。

その一つは、「既成事実化」狙いだ。7月の参議院選挙前はひたすらこの問題を隠し、選挙後は一転して汚染水危機を演出する。「危機だ!」と叫んで国会閉会中に国会審議の必要がない予備費で支出してしまう。10月の国会で、野党が、銀行の責任を問わずに国民にいきなりつけ回しすることを強く批判するだろうが、「もう契約してしまいました」で終わり。逆に既成事実化すれば、秋の補正予算にさらなる支出を盛り込む道も開ける。

今回の対策にはもう一つの嘘が盛り込まれている。

国が今回打ち出した対策には全く新味がない上に、目前の汚染水タンク対策には国費を投入しない。国費投入は、東電がやるべきものではなく、国がやるべき高度な研究開発に使うためだという言い訳をすることが予定されているからだ。凍土方式の遮水壁とか、もう一段高性能化した浄化装置という「研究開発っぽく」聞こえるものに対して予算投入を行うという形を取っているため、さすがにタンクの費用までは盛り込めない。

経産省は、東電が負担すべき廃炉費用の一部を、研究開発と称して密かに国費でやっている。今回も同じだと強弁するのだろう。タンクの費用は、全国の「災害対策」と銘打った秋の補正予算に潜り込ませてくる可能性があるので、要チェックだ。

政府にはもう一つ、急ぐ理由がある。東電は、10月に地域金融機関を中心に約800億円の借り換え、12月には大手行などから2000億円の借り換えプラス3000億円の新規融資の予定がある。実質的に破綻している東電に融資を続けるのは、銀行経営陣にとっては、特別背任罪と株主代表訴訟覚悟でのことだ。そこで、安倍政権としては、銀行経営者に対して、「絶対に銀行を守る」という意思表示をすることが必要だった。これで東電の株価は持ち直し、銀行も安心して融資ができるのだ。

国は東電の支配株主だから、もともと前面に出ていなければならないのに、それを逃げて来た。今回「前面に出る」と言ったが、中身はなく、銀行のために国民を犠牲にするためのトリックだった。

国が前面に出るなら、東電の会長は茂木経産相、社長は政務官で福島常駐ということを堂々と国会を開いて決めたらどうか。そして、やるべきことをどんどん東電にやらせる。東電には年5兆円を超える料金収入があり、キャッシュは尽きない。銀行が借り換えに応じないなら、破綻処理すればよい。銀行の債権を大幅にカットすれば国民負担が減り、柏崎刈羽原発の再稼動なしでも数年は値上げなしで行ける。しかし、安倍政権にその勇気はないだろう。

『週刊現代』2013年9月21・28日号より

『原発の倫理学―古賀茂明の論考―』
定価:500円(税別)
大好評有料メルマガ「古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジン」の多岐にわたる論考の中から、原発事故関連、電力問題に関する記述をピックアップ。政治は、経産省は、東電は、そして原発ムラの住人たちは原発事故をどのように扱い、いかにして処理したのか。そこにある「ごまかしとまやかし」の論理を喝破し、原発というモンスターを制御してゼロにしていくための道筋を示す。
「核のゴミ」を処理できないという大問題の解決策がない以上、「原子力は悪である」という前提に立った上で取り扱うべきだという「倫理感」が国民の共通基盤になるはずだという筆者の思いは、熱く、なおかつ説得力がある。
福島第一原発の事故で原発の恐ろしさに目覚めた人、原子力ムラの企みと横暴に怒りを感じた人、そして「脱原発」を目指す多くの人に、真実を伝え、考える道筋を示し、そして希望を与える「魂のメッセージ」。