汚染水垂れ流しという危機にもかかわらず、原発再稼働に向け動く安倍政権。そんな安倍首相の「恩師」が、弟子の暴走を戒めるように爆弾発言をした。師匠の苦言は、舞い上がった弟子に届くのか。
「いま、オレが現役に戻って、態度未定の国会議員を説得するとしてね、『原発は必要』という線でまとめる自信はない。今回いろいろ見て、『原発ゼロ』という方向なら説得できると思ったな。ますますその自信が深まったよ」
小泉純一郎元首相が語ったそんな発言が、話題と波紋を呼んでいる。
福島第一原発で大量の汚染水漏洩が発覚し、まだ事故が収束にはほど遠いことを日本中が痛感している中、小泉氏はフィンランド・ドイツを訪問していた。8月中旬のことだ。
旅の大きな目的は、フィンランドにある核廃棄物の最終処分場「オンカロ」を見学すること。オンカロとはフィンランド語で「洞窟」「隠し場所」などを意味する。ヘルシンキから約250km北西に位置するオルキルオト島に建設されたこの施設は、原子力発電所から出る使用済み核燃料、いわゆる核のゴミを地中深く封印するための施設だ。
プルトニウムの半減期は2万4000年。このオンカロは、こうした放射性廃棄物が無害になるまで、10万年にわたって地下深く封じ込めるために作られた。
人類は現在、核燃料を使ってエネルギーを生み出したり、兵器を作ったりする方法は知っているが、その後に出る"ゴミ"を安全に処理する方法を見出していない。手の施しようのないものは、見ないことにして土の中に埋めてしまうしかない。オンカロは、原発が抱える大いなる矛盾を象徴する施設だ。
「小泉さんは首相退任後、国際公共政策研究センターというシンクタンクの顧問についています。そこで参加者を募り、フィンランド視察を行いました。同行者は、主に原発施設に関係する、いわば推進派の企業から来ていました」(シンクタンク関係者)
どうもチグハグな組み合わせだが、企業サイドにも狙いがあったようだ。いまだ国民の間で人気を誇る小泉氏を、道中説得して原発推進派に引き入れようとの魂胆もあったという。
だが、小泉氏はそれを突っぱねた。推進派への鞍替えを勧める人々に対し、逆に「むしろ脱原発への意志が強まった」と言い放ったのが、冒頭の言葉である。この経緯は、毎日新聞の山田孝男編集委員によるコラム「風知草」(毎週月曜掲載)で紹介されている。
小泉氏は、こう語ったという。
〈「10万年だよ。300年後に考える(見直す)っていうんだけど、みんな死んでるよ。日本の場合、そもそも捨て場所がない。原発ゼロしかないよ」〉
〈「今ゼロという方針を打ち出さないと将来ゼロにするのは難しいんだよ。野党はみんな原発ゼロに賛成だ。総理が決断すりゃできる。あとは知恵者が知恵を出す」
「戦はシンガリ(退却軍の最後尾で敵の追撃を防ぐ部隊)がいちばん難しいんだよ。撤退が」〉
〈「必要は発明の母って言うだろ? 敗戦、石油ショック、東日本大震災。ピンチはチャンス。自然を資源にする循環型社会を、日本がつくりゃいい」〉(毎日新聞8月26日付・風知草より)