国民会議の最終報告書を首相に提出
民主が3党協議から離脱、実現に不透明感漂う[社会保障改革]

社会保障改革国民会議の清家篤会長(左)から報告書を受け取る安倍晋三首相=首相官邸で8月6日

 政府の社会保障制度改革国民会議(会長・清家篤慶応義塾長)は8月6日、医療、介護、年金、少子化対策の4分野ごとの改革案を最終報告書にまとめ、安倍晋三首相に提出した。高齢者に手厚いとされる社会保障を「全世代型」に改め、所得の高い人には年齢を問わず負担を求めていくことを明記したのが特徴だ。しかし、民主党・野田佳彦政権下で民主、自民、公明の3党合意に基づき、同会議と同時に設置された3党による社会保障の協議からは民主党が離脱。今後は与党中心の「改革」が進むが、不透明さも漂っている。

 国民会議は、野田政権下で始まった自民、民主、公明による税と社会保障の一体改革の3党合意に基づき、昨年11月、内閣に設置された。各党から推薦し、首相が任命した有識者15人で構成され、年金、医療、介護、少子化の4分野を中心に20回議論してきた。この間、3党は合意に基づき年金と高齢者医療のあり方について国民会議に改革の方向性を示すために、実務者協議を開催してきた。

 3党協議は、国民会議の先導役を果たすはずだった。しかし、民主党が年金制度の抜本改革を求める一方、自公政権が現行制度を前提とする立場を譲らず、平行線をたどった。国民会議は当初、協議の行方を見守っていたが、あまりの堂々巡りの繰り返しに、温厚な清家会長も5月17日の会議後、「(3党は)合意に向けて進んでいるふうでもない」といらだちを見せる場面もあった。

 結局、年金制度は民主党が求めてきた最低保障年金などの抜本改革は棚上げされ、微修正にとどまることになった。報告書では、04年の年金改革で導入が決まったマクロ経済スライドの強化を検討することが必要、と記述された。同スライドは物価に連動して増減する年金の伸び率を物価上昇率より「0・9%」抑えて年金財政の改善を図る仕組みだ。しかし、政府与党がデフレ下では適用しないことを決めていたため、これまで一度も発動されていない。報告書には「強化」を盛り込んだものの、インフレを前提とする政権の立場とは合わないことから実施時期は盛り込まれず、実効性も不透明だ。

国保の都道府県移管を明記

 逆に、医療や介護分野のメニューは充実している。柱の一つが市町村単位で運営されてきた国民健康保険(国保)を18年度までに都道府県に移管し、給付にも責任を持つことが明記されたことだ。市町村国保は近年、加入者に無職者や非正規労働者の割合が増えたことで財政が急速に悪化。保険料負担の地域差が広がっていたため早急な対応が求められていた。広域化で国保財政を強化するとともに、地域ごとの実情に合った医療計画策定を各知事に責任を持ってもらう狙いもある。

 病院のベッド数や介護施設の効率的な配置を進めるため、地域の複数の病院をホールディングカンパニー(持ち株会社)型化した新型医療法人などを例に挙げ、地域の病院再編に取り組む方針も盛り込んだ。医療機関をグループ化し過当競争を抑え、役割分担を明確化するのが目的だ。

 介護も、比較的介護の必要度が低いとされる「要支援1」「要支援2」の人を、将来は地域包括ケア体制を整備することと引き換えに、現在のサービス対象から外して市町村事業に移す方針も打ち出した。「介護保険外し」との批判がつきまとうが、田村憲久厚生労働相は「介護保険給付と同じ割合で出される財源を使う。(市町村が)財源をどこかで調達しなければいけないことではない」と理解を求めている。

 同時に、「改革」には高所得者に負担を求める一方、低所得者は軽減する政策が随所に織り込まれている。医療分野では、高齢者の医療費を確保するため、平均年収が高い企業の従業員の負担が増える「総報酬割り」の全面導入や、高額療養費の自己負担を高所得者は上げる一方、低所得者を下げる。介護は、高所得者の自己負担割合(現行1割)を引き上げるほか、年金も高所得受給者の課税を強化する、などだ。

 政府は改革の手順やスケジュールを定めた「プログラム法案」の骨子を21日に閣議決定。秋の臨時国会に提出する。個別の制度改革案については、来年の通常国会を皮切りに順次法案を提出していく予定だ。しかし、会議自体が有識者のみで構成され、利害関係者は入っていない。調整はこれからだ。

 国保は慢性的な赤字体質が課題だ。11年度は市町村が一般会計から3508億円を補填しており、これを差し引いた全体の実質赤字は3022億円に達する。この構図が引き継がれることに対する都道府県の警戒心は強い。全国知事会は8月6日、「国の責任と負担のみが軽減され、一方的に地方に転嫁するようなことがあってはならない」とけん制している。

 また1割に凍結されている70~74歳の医療費窓口負担を法定通り2割に引き上げる時期を「早期に」と迫った。これまで08年度から2割とすることが決まっていたが、国政選挙を前に高齢者からの反発を懸念した自公政権は1割への据え置きを決め、民主党政権でも引き継がれた。政府は毎年2000億円の公費を投入してきた。

 政府は来年4月からの引き上げを想定しているが、公明党は実施と引き換えに医療費の自己負担に上限を設けている高額療養費制度について、低所得者の軽減対策(年収300万円以下の世帯を限度額を4万円程度に下げる)を公約に明記しているため、与党内で具体的な所得区分の調整が必要になる。

 さらに、3党協議の一翼を担ってきた民主党は7月の参院選で大きく議席を減らし、報告書にも同党の主張が取り入れられなかったことから協議からの離脱を表明。自公側は引き続き、協議への復帰を促しているが、民主党幹部は「もはや信頼関係はゼロだ」とめどは立っていない。

 一方、参院選では年金制度で自分で積み立てたお金を将来受け取る「積立方式」を公約に掲げたみんなの党や日本維新の会が一定の議席を確保した。3党協議の枠組みは、現役世代の保険料を高齢者の給付に充てる現行制度の「賦課方式」を前提にしている。勢力構図が変わった国会で、3党だけの枠組みが他党の理解も得られるかも不透明だ。

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