シリア情勢を危ぶむロシア、イギリス、アメリカ、イスラエルそれぞれの立ち位置
軍事介入を断念した英・キャメロン首相〔PHOTO〕gettyimages
【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」夏の特別号 目次】
―第1部― インテリジェンスレポート
 ■分析メモ No.46「イシャエフ露極東連邦管区大統領全権代表の解任とトルトネフの同職兼副首相への任命」
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート No.59『実践国際法』
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 今後のラジオ出演、講演会などの日程

深読みジャパン

邦丸: 今日はこのニュースを取り上げます。

伊藤: 共同通信から。「イギリス下院 シリア介入を否決」。
シリアで化学兵器が使用された疑惑を受けイギリス政府が提出した、シリアへの軍事介入に参加する前提となる議案について、議会の下院は(8月)29日、反対多数で否決しました。下院の議決に拘束力はありませんが、シリアへの軍事介入にイギリス軍が参加することはきわめて困難な状況となりました。

キャメロン首相は政府が提出した議案が否決されたことを受けて、「軍事行動を望まない議会の意思が明確になった。政府はそれに従って行動する」と述べ、議会の承認がないまま軍事介入に乗り出さない考えを表明しました。イギリスとの共同行動を視野に入れ、シリアへの軍事介入に進んでいたアメリカは単独で軍事介入に踏み切るのか決断を迫られることになり、アメリカやイギリスなど軍事介入を想定している国々には大きな痛手となりました。

邦丸: 佐藤 優さんがいろいろなメディアでこのシリア問題を取り上げているんですが、今回問題となっているシリアでの化学兵器について、これは佐藤さん、シリアに化学兵器があるということは大分前から知られていたことですよね。

佐藤: 大分前から知られていたことです。化学兵器を隠しているのがどうしてバレなかったのかというと、北朝鮮が地下に、化学兵器を隠してもバレないというものすごいトンネルを掘っていたからです。

邦丸: それはシリア国内でですか。

佐藤: そうです。北朝鮮の貿易でけっこうデカいのは、「トンネル堀り」なんですよ。以前、カダフィさん(2011年までのリビアの最高指導者)が逃げ出したときに、ゴルフのカートで移動できる地下室のトンネルが出てきたじゃないですか。あれ、北朝鮮製ですよ。

邦丸・伊藤: へぇ~~~。

佐藤: 今、スパイ衛星でも地下は映せないんです。だから独裁国家の連中に、都合の悪いモノを隠す、あるいは逃げ出すときのための地下の豪華な家をつくるというのが、北朝鮮の重要な輸出産品なんです。

邦丸・伊藤:へぇ~~~。

佐藤: それでVXガスとかサリンとか隠し持っていることは間違いないんですね。今回、政府軍が使ったというのも間違いないんですよ。だから、アメリカがでっち上げしているとかウソをついているとかいう話じゃないんですね。ただ、アメリカは『ドラえもん』のジャイアンなんですよ。「毒ガス使ってるんだと。こんなヤツ、絞めてやれっ。ぶん殴るっ」と、こういう感覚なんですね。

邦丸: ふむ。

佐藤: イギリスはちょっと違うんですよ。どうしてかというと、シリアはフランスが委任統治、事実上の植民地支配をしていた。そのフランスと張り合う形で、イスラエルとシリアにかかるパレスチナ、こっちのほうはイギリスが植民地支配していたんですね。あの辺の事情をよーくわかるわけなんです。それでシリアに関しては、キーワードになるのは「アラウィー派」なんです。

邦丸: アラウィー派?

佐藤: はい。これは日本の新聞を読んでいると、ちょっとずれちゃう。「アラウィー派とはイスラーム教のシーア派の一派である」と書いてあるんです。要するにイランもシーア派ですけれど、主流派ではないという書き方ですね。実はアラウィー派とは、シーア派におカネを出して頼み込んで「シーア派と認めてください」と言った宗教で、新興宗教というか、キリスト教の要素もごちゃごちゃに入った山岳宗教なんです。

邦丸: イスラム教徒はちょっと色が違うんですね。

佐藤: ぜんぜん違います。だからイスラーム教徒とは結婚もしないですし、独自の神殿もあるんです。コーランにも準拠していないんです。ぜんぜん違う宗教なんです。ここを看過すると全体がわからなくなっちゃうんですよ。

かつてフランスの委任統治、事実上の植民地支配しているときに、フランスの行政機関は全部このアラウィー派の人を使ってやっていたんです。秘密警察も警察も。それでシリアが独立するときに、アラウィー派だったらフランスの影響下にあるからという形で、アサド政権の根っこというのはフランスにあるんですよ。そういうアラウィー派を通じて植民地支配を続けようとした。しかし、うまくいかない。軍人もエリートも秘密警察も全部、このアラウィー派だけで占めて、ムスリム同胞団という、今エジプトで大きな力になっているのがありますが、シリアでも大きかったんですが、これを皆殺しにしちゃったんです。

邦丸: アラウィー派が。

佐藤: そう。今のアサド大統領のお父さんの(ハーフィズ・)アサド大統領が反対派は皆殺しに。あと、あそこはクリスチャンが13%いるんですよ。刃向うものは皆殺し。要するに、同じシリア国民だという意識がないんです。アラウィー派のグループをどうやって守るかという、部族・宗教意識だけで固まっている。それではダメだということで、今のバッシャール・アサド大統領は奥さんをスンニ派というイスラーム教の主流派からもらった。それで主流派の一部を取り込んだけれど、これも崩れている。だからなにが起きているかというと、化学兵器を政府軍が使ったのは間違いないが、もしかしたら、化学兵器の管理ができなくなってしまっているのかもしれないんです。

邦丸: シリア軍が。

佐藤: そう。だから、バッシャール・アサド大統領が命令したのではなくて、シリア軍の誰かが勝手に化学兵器を使っている。それからロシアからの報道では、反政府側が使っているという。これはあり得ると思うんです。ということは、恐ろしいことが起きていて、化学兵器の管理ができなくなって、シリア国内で今、毒ガス戦争が始まろうとしている。お互いに「国民」という意識がないですから、反アラウィー派の連中からしたら、アラウィー派なんかぶっ殺したって構わない。

だからどういう状況なのかというと、アラウィー派はこれから北西の山のほうに逃げていくんです。北西の山のアラウィー派の神殿のあるところで、自分たちの王国をつくるわけです。シリア全土はもう占拠できていないんですよ。そうなったとき、残された化学兵器や地対空ミサイル、こういうのをススススーッと持っていきそうなヤツがいるんですね。これがレバノンのヒズボラなんですよ。

邦丸・伊藤: ははあ。

佐藤: ヒズボラはイスラエルを消滅させることを目的にしていて、後ろでイランがおカネを出しているんです。こういう複雑な状況があって、それでその反体制派というのはぜんぜん人権を尊重しない、あえて言いますが、「反グレ」みたいな感じなんです。こういうグループを集めてきて、フランスとかアメリカとかが軍服を着せて、「自由の戦士だ」「反体制派だ」とやっているわけですよ。だから反グレ集団みたいな感じなんです。それで、普通の国民はただひたすら怯えているわけなんです。

恐ろしいこのアラウィー派というシリアの国軍と、反グレが制服を着て機関銃を持って強奪とかめちゃくちゃやっている反体制派。こういう状態になっているんですよ。この状態のなかで、今のバランスを崩したら大内乱になるんだと考えているのがロシアであり、イスラエルであり、それから実はイギリスの専門家たちなんです。それに対してアメリカは、「悪いコがいる。これは絞めてやったほがいい」と、こういう単純な感じできているんですよ。・・・・・・

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