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話題の本の著者に直撃! 松井忠三
左遷の経験は決して悪くない。
真の人間模様が見えるからです

'49年静岡県生まれ。株式会社良品計画会長。'73年東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、西友ストアー(現・西友)入社。'92年良品計画へ。'01年社長に就任。'07年には過去最高売上高(当時)となる1620億円を達成した。'08年より現職に就き、組織の「仕組みづくり」を継続している。自社の飲料を片手に

取材・文/横田由美子

―「無印良品」を運営する良品計画は、12年前、38億円の赤字を出して経営危機に陥りました。松井さんが社長に就任して奇跡的なV字回復を遂げますが、問題点はあらかじめ把握していたのですか?

 とんでもない。突然、前任の社長が辞めてしまい、僕にお鉢がまわってきたのですが、販売や営業といった主流から外れたポジションにいましたからね。中国出張の直前に社長就任の打診を受け、冷静に考えるヒマもなく、帰国して就任会見に臨んだんです。当時の写真を見ると、目が虚ろ(笑)。何の準備もしていなかったし自信もなかった。今後の方針を考える材料もありませんでした。

「逆境こそが宝物」というのは、いまの僕の持論ですが、不採算店を閉鎖する、在庫を一掃してしまうなど、ドン底で必死に止血方法を考え続けたことが、結果として「負けた構造」から「勝つ構造」に転換させる仕組みづくりにつながったと思っています。そのひとつが、後述する「MUJIGRAM」という2000ページのマニュアル書です。

 そのため、 '02年には減収減益から減収増益に転じ、 '05年には売上高1409億円、経常利益157億円と過去最高を達成することができたのです。

―松井さんは、 '91年に当時の親会社だった西友から実質、左遷されて来たそうですね

 41歳でした。西友で18年働いて、そのうち15年は人事部に在籍していました。セゾングループの一員だった西友という会社は、「経験主義」の考え方が強く、その道のプロを育てる傾向がありました。よい面もあるのですが、後に私は「経験主義だけでは会社は滅びる」と考えるようになります。なぜなら、売り場づくりも仕事のノウハウも、個人の中にしか蓄積されず、会社の財産にはならないと気がついたのです。

 しかも、そこで出世できなければ、肩たたきに遭い、子会社に出向していくのが定番化していました。そんな人たちの送別会を繰り返していくなか、あるとき、自分の番が巡ってきたというわけです。でも左遷の経験は決して悪くない。「左遷される僕を見捨てない、本当に信頼に足るべき人物は誰か」など、自分をとりまく真の人間模様が正確に見えるからです。