読書人の雑誌『本』
『まんが哲学入門』著:森岡正博
まんがで哲学を描いてみた!

講談社現代新書から『まんが 哲学入門』という本を出すことになった。大げさに言えば、これは「哲学界」と「まんが界」に波紋を呼び起こすかもしれない出版物なのである。

まず哲学界についてであるが、いままで、たとえば『まんが ニーチェ入門』というふうに、過去の偉大な哲学者の思想をまんがで解説する本はたくさんあった。哲学史の流れをまんがでおさらいする本もあった。しかしながら、哲学者である著者本人が、自分自身の思索をまんがで描いた本というのは存在しなかったのだ。

「え?」と思われるかもしれない。そう、この本の約二三〇ページにわたるコマ割まんがの原画を描いたのは、私なのである。A4の用紙に鉛筆書きでまんがの原画を描いて、それをプロの漫画家である寺田にゃんこふさんに版下に仕上げてもらったのだ。寺田さんは、私の原画に忠実に、すばらしい線で完成させてくださった。

哲学の二千数百年の歴史の中で、哲学者自身によって全編まんがの本が描かれたことはなかった。これを快挙と言わずして何と言おう!とひとりで盛り上がっているのである。できあがった版下を何人かの方に見ていただいたが、登場するキャラたちが「なかなかカワイイ」そうである。「かわいい哲学オリジナルまんが」がここに登場したのだ。

次にまんが界についてである。実は、インターネットで「まんが横書き論争」なるものが勃発している。日本のコミック本は右綴じで、吹き出しの文章は縦書きである。実際に調べてみると分かるが、プロの漫画家によるほとんどすべてのまんが本は「右綴じ縦書き」になっている。なぜなのかは分からないが、手塚治虫先生がそのようにしたから、そうなっているのではないだろうか。

しかし、海外に輸出するときのことを考えれば、まんが本は「左綴じ横書き」のほうがぜったいに良いのである。たとえば英語や簡体中国語やスペイン語などは横書きだから、横書きのほうが翻訳した文字を入れやすいのだ。これまでの日本のメジャーなまんがは、縦書きを固守してきた。その伝統を大手の出版物ではじめて破ったのが、『まんが 哲学入門』なのである(コマ割まんがにこだわらなければ、山井教雄『まんが パレスチナ問題』『まんが 現代史』という横書きの二冊がすでに講談社現代新書から出ている)。

もちろん、講談社現代新書は「まんが界」の外側にいるから、この本の試みがただちに日本のまんが界に波紋を呼び起こすとは考えにくい。でもここに何かの可能性を感じてくれる漫画家さんたちがいればうれしいなと思う。

さて、『まんが 哲学入門』の内容に戻ろう。

この本では、私が何十年もずっと考え続けてきている四つのテーマ、すなわち「時間とは何か」「存在とは何か」「私とは何か」「生命とは何か」について、できるかぎり奥深くまで突っ込んで考えてみた。これらは、多くの読者が気になっているテーマでもあるはずだ。誰だって一度は、「時間が流れるっていったいどういうことだろう?」と考え込んだことがあるだろう。

時間はどんどん流れていって、それを止めることは誰にもできない。時間はほんとうに流れているのか、それとも時間は流れていると私たちが「感じている」だけなのか。そもそも「流れる」とは、いったいどういうことなのか。

 
◆ 内容紹介
「生きるってなんだろう?」―誰もが一度は考えたことのある問いに、「時間」「存在」「私」「生命」の4つのテーマから迫っていく。難しいことばをほとんど使わず、「まんまるくん」と「先生」の二人の掛け合いの形から、哲学の根本問題をゆっくりと解きほぐしていく哲学入門書。