官々愕々「産軍複合体」という怪物

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「産軍複合体」という怪物が、日本を破滅の道に追い込んで行くのではないか。最近の安倍政権の安保政策を見ていると、そんな怖れすら感じる。7月の参議院選投票日までタカ派色を一時的に隠してきた自民党安倍政権だが、選挙が終わったとたん、数々の「軍備増強」策を打ち出している。

7月末に出された新防衛大綱の中間報告には、「安全保障環境の変化」を理由に、様々な軍備増強の方針が網羅された。

集団的自衛権行使についても、いつのまにか全面解禁という方向になっている。この方針に否定的な法制局長官を交代させてまで解禁を強行するつもりだ。

武器輸出三原則も形骸化しつつある。防衛装備品輸出を成長戦略の柱に位置付けるという。日本が、ついに死の商人になるというのだ。

「国防軍を保持する」と書き込んだ自民党の憲法改正案も防衛産業を喜ばせている。今の憲法には、戦力は「保持しない」と書いてあるので、自衛隊は本来不要だし、持つとしても最小限にという歯止めがかかる。しかし、改正案では国防軍を持たなければ違憲となる。しかも、「我が国の平和と独立」「国及び国民の安全」確保のためと書いてあるので、中国を仮想敵国とみなす安倍政権では、中国に負けない軍備保持が憲法上の要請になってしまう。軍拡のために作ったような条文だ。

一方、強大な利権構造を築いている中国の「産軍複合体」も、安倍政権の軍拡路線を歓迎している。何故か。彼らが一番気にしているのは、実は日本の軍事力ではない。中国軍の拡大路線に対する厳しい国際世論だ。中国軍は、南シナ海で外見上融和路線を見せたりしているが、これは、国際世論が抑止力になっているからである。

世界の注目を集める安倍政権の右傾化路線は、中国軍部にとって願ってもない宣伝材料となった。安倍政権が戦争責任を認めず、帝国主義的侵略戦争への準備を始めたと喧伝すると、日本の軍拡路線に対抗するために中国も軍拡を続けざるを得ないという理屈として使えるからだ。実は、ロシアの北方四島返還反対派もこの理屈で四島返還に反対している。

中国の軍拡は、さらに日本の軍拡を呼ぶ。こうして両国の「産軍複合体」が喜ぶ軍拡競争がエスカレートして行く。しかし、これは日本にとって最悪のシナリオだ。

何故なら、日本には軍拡競争に堪える経済力がない。成長戦略の議論は宙に浮いたまま、目に付くのは族議員の予算の分捕り合戦だけだ。局地戦の戦費調達さえ危うい。中国軍の駆け引きは、それを見越しての上だ。

米国も余力がなくて中国とは戦えない。だから、中国か日本かという踏み絵を踏まされる事態は絶対に避ける。日本が中国と本気で対立しても、戦いにならないように譲歩させられるのが落ちだ。米国を頼りに軍事力で中国と対峙しようという安倍政権の戦略は、絵に描いた餅、単なるタカ派のユートピアに過ぎない。

では、どうすればよいのか。

憲法の前文に答えがある。中国の軍拡路線に危機感を持つ世界の国々と手を携えて、中国を抑える。そのためには、日本が世界から平和国家として信頼されなければならない。それしか今の日本には手がない。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう」「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」という前文の言葉こそ、最も現実的な国防戦略なのだ。

終戦記念日に、戦争責任と不戦の誓いを避けた安倍総理。中国との戦争も辞さないという意思なのか。首相には憲法を尊重する義務があるのだが。

『週刊現代』2013年9月14日号より

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