雑誌
日本を「捨てる会社」「捨てない会社」
【第7部】日本は人件費が高いだけのダメな国なのか

宮城県にあるトヨタの工場。「日本在住」のこだわり〔PHOTO〕gettyimages

【第7部】 この国に魅力はないの?
日本は人件費が高いだけのダメな国なのか

 日本企業はこれまで、「グローバル化」を合い言葉に海外進出を続けてきた。だがその事例の多くは、かつての高度成長時代のように「日本の商品が世界を席巻する」という希望に満ちたチャレンジではなかった。

 少子高齢化による国内市場の縮小と、長引く円高とデフレ経済。さらに2011年3月11日の大震災による被害など、複合的な要因が企業の海外「脱出」を余儀なくさせてきた。

「日本の場合、人件費や電気料金、さらに法人税など、コスト面の問題もあります。たとえば、中国の工場労働者は1ヵ月3万円程度の賃金ですが、日本では派遣社 員であっても、その数倍の賃金になります。新興のミャンマーなどは、さらに中国の3分の1ほどの人件費で済む。法人税も、韓国や欧州は約25%、他のアジア諸国は20%前後のところ、日本は35%。これらが日本企業の海外移転に拍車をかけてきました」(信州大学経済学部・真壁昭夫教授)

 同じものを作るのに、コストが数倍、数十倍も違ったのでは、世界市場で勝負ができない。国内でモノが売れない中、海外でも競争力を失ったのでは立ち行かなくなる—。そう考えた多くの企業が、生産拠点などを海外に移転したのは止むを得ない決断だった。

まだまだ世界で戦える

 ところが今、冒頭で紹介したトヨタが証明したように、流れに変化の兆しがある。極度の円高が是正されたこともあり、これまでの「日本はもうダメだ」という敗戦ムードが変わり始めたのだ。輸出企業が息を吹き返し、「まだいける」という空気が漂い始めている。

 そして同時に、海外進出が、必ずしも望ましい結果をもたらさないことも明らかになってきた。

「トヨタは研究開発部門や人材育成などの本社機能を、海外へ移転させていません。これには理由があり、かつてGM(ゼネラルモーターズ)は新車の開発部門など 本社機能の一部をオーストラリアに移転したことがあります。すると自動車の品質が劣化して、ますます売れなくなってしまった。

 コストの安い海外で開発を行えば費用面ではプラスになりますが、現地の従業員はカルチャーが異なりますし、人材面でも質が落ちる。結果として売れる商品が作れなくなり、マイナス効果が生じてしまうケースもあるのです」(真壁氏)

 なんでもかんでもコストダウンすればいいというわけではない。企業の根幹とも言える開発や企画など中枢部門までアウトソーシングしたのでは、結局は長い目で見ると、自分たちのクビを絞めることになる。

 これは、大規模なリストラで従業員のクビを切った結果、製品開発力を失ってヒット商品を生み出せなくなった一部のメーカーなどで指摘されてきた事実だ。

「日本はものづくりの文化が根付いている国でもあります。日本製品はまだまだ、世界的にはブランド力がある。そのブランドを守るためには、製品の比較優位性や 高い性能は不可欠です。日本製品が"安かろう、悪かろう"になってしまっては意味がありません」(第一生命経済研究所主席エコノミスト・永濱利廣氏)

 トヨタ同様、海外で成功しながら、日本に拠点を置き続け、雇用も守り続けている企業の一つに、コマツがある。コマツは中国など海外での売り上げが全体の8割以上を占めるが、建設機械にGPS(全地球測位システム)を搭載し、日本から機械の稼働管理を行うシステムを導入している。

「コマツはこのシステムで、全世界で稼働している車両の配置や稼働時間、燃料の消費量、部品の消耗状況などの情報を顧客に提供しています。製品だけでなく、そうした緻密な管理状況までが付加価値となり、顧客の大きなメリットになる。日本で一括管理しているからこそできたシステムであり、それが成功の理由です」(前出・真壁氏)

 つまり、人件費をカットして、単に安いものを作るだけが世界で勝つ方法ではない。他が追随できないシステムやサービスを提供できれば、「日本脱出」など考える必要はないわけだ。

 これまでグローバル化の中、古き良き日本の企業文化は、競争力を阻害する原因だとして廃止する企業も増えていた。だが、それらは日本中に失業者や非正規雇用者を大量に生み出しただけで、日本経済に何の恩恵ももたらさなかった。

 ここに来て、その行き過ぎた部分を是正すべきという声も上がり始めている。

「合理性を追求した欧米式の成果主義は日本に定着できなかった。今では、日本式の良いところも見直されています。たとえば終身雇用は、従業員が企業に忠誠心を 持ち、業績アップのために懸命になる原動力となります。それに、今後日本から輸出して世界に売っていく商品には、日本式の『おもてなし』の精神を活かしたサービスが、より重要になってくる。日本で事業を行うのも、捨てたものではないはずです」(証券アナリスト・植木靖男氏)

 人も企業も、自分の国を見限るのはまだ早い。ニッポンには、世界で戦える潜在能力が十分にある。

〈了〉

「週刊現代」2013年9月7日号より

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら