雑誌
日本を「捨てる会社」「捨てない会社」
【第3部】孫正義社長はどう考えているのか
【第4部】なぜ商社は日本にとどまるのか

次はどこの国を狙う?〔PHOTO〕gettyimages

【第3部】捨てるのか、捨てないのか
孫正義社長はどう考えているのか

「企業とは、『企てる業』のこと。なにかを企てていないと、企業とはいえない。企てるために必要なのは強烈な個性であり、これがグローバル時代の勝ち残りのカギになる。ただ、個性はそれぞれの企業や経営者が持つルーツ(根源)からしか生まれない。ルーツのない企業は根なし草のように、枯れていくだけ。つまりルーツのない企業は、真のグローバル企業とはいえないわけです」(同志社大学教授の浜矩子氏)

 ソフトバンクの孫正義社長が、米大手通信企業スプリントを買収するとぶち上げた時、大方の反応は懐疑的なものだった。

「米国でうまくいくはずがない。無謀だ」「そもそも買収だって失敗するだろう」など……。

 しかし、孫氏はそうした周囲の反応さえ、楽しんでいたのかもしれない。常に人々を驚かせるような「企て」を発表、単なるビッグマウスだと批判されながらも、孫氏は"期待を裏切って"すべて実現してきたのだから。

大きく出て、大きく育てる

 1兆7500億円もの巨額を投じて英ボーダフォン日本法人を買収(当時は日本企業による最高額の買収案件)して、携帯電話事業に参入した時もそうだった。あの時、誰がいまのソフトバンクの姿を想像できただろうか。

 そして今回、孫氏がスプリント買収を成功させたとの報道が流れると、大方はついに態度を改めざるを得なくなった。孫氏こそ、実は現代を代表する名経営者なのではないか、と。

「孫正義はビッグマウスだと耳にするが、たとえばソフトバンクは今年5月に時価総額でNTTドコモを上回った。『NTTを超える』という大言壮語を有言実行したわけであり、高く評価すべきです。孫氏の言には『アウトサイダーとして業界に挑むには大きな困難がついてくる。しかし、私にとってそれを乗り越えていくのが生きている実感である』というものがある。孫氏の経営者としての本質が夢と反骨精神をバックボーンに持つ、リスクを取り続ける企業家であることを示しています」(明治大学教授の小笠原泰氏)

 孫氏の企てを支える「ルーツ」は、果敢にリスクを取り続けるその姿勢にあるというわけだ。

 それはソフトバンクの主力事業の変遷を見ても、よくわかる。コンピューターソフトの卸売業、プロバイダー事業、そして携帯キャリア業とコロコロ変わる。

 その間には日本長期信用銀行(現・あおぞら銀行)株を取得したり、証券市場ナスダック・ジャパンを創設したりもしている。最近では東日本大震災後に、メガソーラー事業に進出したことが記憶に新しい。

 もちろんすべてが成功しているわけではないが、まったく異業種に乗り込んでいき、まさに「アウトサイダー」として業界の常識を破って成長していく様は、見るものを感動すらさせるものがある。

「あまりに戦略が大胆すぎるため、周囲はリスクが大きすぎると不安になる。しかし、本人はそんなこと知らんと思っているのだろう。むしろ、日本の経営者はどうしてアドベンチャー(冒険)に乗り出すことを楽しまないのかと、問題視しているのではないか」(経営コンサルタントの鈴木貴博氏)

 スプリント買収後、初めて公開の場で講演に臨んだ孫氏は、「世界に大きく羽ばたいていきたい」と意欲を語った。同時に、「30年後」に世界がどう変わっているか、30年後に3万円の携帯端末でどのようなことができるようになっているかというビジョンを披露して見せた。遠く未来を緻密に見据えながら、打って出る時は大胆に突き進む—孫氏のそんな一面を垣間見せる一幕だった。

「日本企業が新しい国に進出する際の"作法"は、小さく出て大きく育てるというのが普通だ。しかし、孫さんは大きく出て、さらに大きく育てようとしている。そのリスクに果敢に挑む姿に、経営とはそもそもそういうものではなかったのか、と思い出させられた」(大手電機メーカー幹部)

 日本企業はまだまだやれる。世界を舞台に戦える。そのリスクを取っていないだけじゃないのか。孫氏はそんな問いかけを、怖気づいて日本にとどまる経営者たちに投げかけているのかもしれない。

 ソフトバンクグループは、スプリント買収により世界第3位の売り上げ規模を誇る携帯事業者に躍り出た。ただ、これはあくまでスタートラインでしかない。米国を舞台にどんなエキサイティングな戦いを見せてくれるのか。孫氏の真価がいま、再び問われようとしている。

【第4部】出て行って当然なのに
なぜ商社は日本にとどまるのか

 世界を舞台に戦う総合商社のビジネスの現場は滅法えげつない。大手総合商社の海外駐在員は、自らの経験をこう振り返る。

「中東のある産油国で油田のプラント関係の仕事をしていたときのことです。相手に食い込むために、ありとあらゆることをしました。スイスのプライベートスクールに通う石油王の御曹司を抱き込んで、受注に成功したことをよく覚えています。まず知人のツテを頼り、御曹司を探し当てた。日本製のゲームや一眼レフカメラを贈って機嫌を取り、旅行で接待したこともあります。彼に口利きをしてもらうことで、父親の石油王を口説き落とし、数百億円のプラントを受注することに成功した。御曹司自身も、数年もすれば実権の一部を握ることになるので、青田買いの側面もあります。

 また、宗教上ご法度とされていても、どの国でも男は女が好きなもの(笑)。マークした相手を国外に連れ出し、"特別な"接待をすることもよくある話です」

 長年の努力が実を結んでか、総合商社の業績は現在も絶好調だ。今期の連結決算では、首位の三菱商事の純利益は4000億円になる見通し。2位の伊藤忠も2900億円で、上位5社はすべて2000億円を超える純利益を叩き出すと予想されている。

「業績好調の最大の要因は資源バブルです。世界的な金融緩和が進むなか、余剰マネーが石油などの資源やエネルギーに集まった。また、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)などでエネルギー需要も高まり、価格が高騰。昔からこの分野に投資してきた日本の商社に大きな果実をもたらしたのです」(帝国データバンク名古屋支店情報部・中森貴和部長)

 かつては「ラーメンからミサイルまで」と言われ、"何でも屋"だった総合商社は、日本の経済成長を支えてきた。『日本の7大商社』著者で経済ジャーナリストの久保巖氏はこう話す。

「総合商社は国内企業の求めに応じて、外国政府や企業との交渉、原材料の開発、製品の販路確保まですべてを担当してきました。だからこそ、自動車、鉄鋼、電機などのメーカーは、製品開発に集中でき、他国の追随を許さない高い技術力を磨くことができたのです」

 しかし、バブル崩壊後、従来のビジネスモデルでは立ち行かなくなった。

 そこで商社はコンビニや携帯電話販売事業など業態を多角化。近年は資源・エネルギーからインフラ、工場建設など大きな案件を手がけるようになった。今後は新興国でのビジネスが成長のカギを握ると見られている。久保氏が続ける。

「資源・エネルギーに頼りすぎると、価格が暴落した途端に業績は悪化します。今後は国内の規制改革の流れに乗って新規事業に投資する一方、アフリカや中近東、アジアや中南米などの新興国に肥料工場や発電所を作るといったビジネスをこれまで以上にやっていかなければならないでしょう」

 世界に飛び出し、グローバルビジネスを知悉する総合商社は、日本だけを向いて商売をしていない。たとえば今年7月、丸紅は穀物集荷全米第3位の米ガビロンを買収した。名実ともにグローバル企業と言っても過言ではないだろう。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら