雑誌
日本を「捨てる会社」「捨てない会社」
【第2部】社員はコスト?ユニクロ・柳井社長は日本を捨ててどこへ行くのか

今年6月、ユニクロはインドネシア1号店を開店した〔PHOTO〕gettyimages

第2部 社員はコスト?
ユニクロ・柳井社長は日本を捨ててどこへ行くのか

「社員を業績など目に見えるものだけでドライに評価することが、グ ローバル経営だと勘違いしている日本人経営者が増えています。本当は社員の人間性、価値観などをすべて勘案したうえで、どうすれば企業の中で活躍できるか を示してあげるのが企業の役割でしょう。

結果、会社と社員の信頼関係もできるのだし、働く人の意欲も能力も向上する。これが日本企業の強みだったのに、間 違った考えをグローバル経営の常識とはき違えて、日本企業は失敗し始めている」(立命館大学教授の高橋伸彰氏)

 同じような感想を持つ人は少なくないだろう。ただ、ユニクロを展開するファーストリテイリング(FR)会長兼社長の柳井正氏は「同意」してくれないかもしれない。甘ったるいこと言ってんじゃないよ、と。

 なにせ柳井氏の考え方は、「Grow or Die(成長か、さもなくば死か)」。グローバル規模で優秀な人材を集めるために、幹部社員には「世界同一賃金」を導入、世界中で社員間の競争を促す方針を掲げている。

 勝ち残った者には億単位の年収が待っている。しかし、「仕事を通じて付加価値がつけられないと年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」と、柳井氏は仰天の〝給料格差〟制度まで示唆しているのだ('13年4月23日付朝日新聞)。

 社内公用語は英語。日本人も外国人も関係なく能力の高い人物は集まれとやっているのだから、「日本企業」から脱皮し、文字通りのグローバル企業を目指しているように映る。

 実際、FRグループはすでに日本人の大卒者より、海外の大卒者の採用数が多い。「我こそは」と腕自慢の人材が、世界各国から集まっている証拠であり、柳井氏の狙いは成功しているのかもしれない。

 しかし、それが企業の成長に直結するかどうかは別問題である。東京大学教授の高橋伸夫氏はこう言う。

「私が以前に『虚妄の成果主義』という本を書いたとき、興味深い現象 が起こりました。外資系日本法人の人事部長が相談に来て、こう言うんです。『私たちは日本では年功賃金を取り入れていたのに、最近は日本人社員が成果主義 を導入したほうがいいのではと言い出している。おかしいでしょう』と」

本当の狙いは何なのか

 ドライな成果主義に徹しているイメージの強い外資系企業だが、実は日本法人では年功型の日本的人事体系を採用しているところが少なくないという。

「海外の名だたるグローバル企業は、現地に合わせたグローバル化を進 めているわけです。そのほうがうまくいくからです。『世界同一賃金』は、経営者にとっては社員を楽に管理できるシステムかもしれません。しかし従業員の能 力向上や企業の成長につながるかは疑問です」(前出・高橋伸夫氏)

 グローバル化とは、本来、様々な国で認められ、受け入れられる企業を目指す姿勢を指すはずだ。そのためには現地の実情に合わせたきめ細かな配慮や工夫が必要であり、一筋縄の企業努力では達成できない。地域エコノミストの藻谷浩介氏が言う。

「企業というのは、ローカルな特殊事情をクリアすることで、世界の市 場で闘える競争力を持てるのです。たとえばトヨタは、日本人の異常に高い安全性や機能性への要求に応えるクルマ作りをしてきたからこそ、海外に進出した際 もヒットを生み出せました。こうした本質を顧みずに、社内公用語を英語にするなど小手先のエセ・グローバル化をやっても意味がない。むしろ逆効果だと思い ます」

 現地での人材育成にしても、「魔法の杖」はない。地道に現地社員と心を通わせ、彼らの文化を取り入れるなど分かり合おうとする努力を重ねる。そうした地味で地道な作業を続けるしかない。藻谷氏が続ける。

「そもそも社内公用語を英語にしても、日本国内の店舗で接客するには 日本語が話せなければいけない。私がそこまで日本語が上手な外国人なら、もっといい就職先があるからユニクロは選びません。

それに英語を公用語化しないで 世界で活躍している日本企業はいくらでもある。柳井氏がことさらグローバルを強調するのは、単なる人集めのための宣伝に映ってしまいます」

 FR社の新卒社員の3年以内離職率が、約5割という事実も見逃せない。新卒社員の2人に1人が会社を去っているのは、異常としか言い様がないからだ。これはユニクロにブラック企業批判が浴びせられる発端にもなった。

 それでも、辞めた人材の穴はすぐに埋まるし、そもそも辞める人間はユニクロ式についていけない落ちこぼれだとする考え方もあるだろう。

 柳井氏はインタビューに応じた日経ビジネス誌上で、「離職率が2~3割であれば普通でしょう」としたうえで、「我が社が本当にブラック企業であれば、社員の数はもっと減っている」とも語っている。だが、この言葉に共感する人がどれだけいるだろうか。

 ユニクロが大きく表舞台に出てきた時、われわれは質の高い服が考えられないほど安く買えることに、驚きを感じた。日本人に何か新しい世界を見せて くれる企業だと、ワクワクもした。ユニクロが日本を変えてくれるのではないかという期待感もあった。しかし、いまの柳井氏がどこへ向かおうとしているのか は、不透明で見えにくくなっている。

「柳井氏はやたら競争を煽っているように見えます。しかし、競争の行 き着く先は『独占』でしかない。では仮に競争に勝ってユニクロが独占的な企業になったとき、それはわれわれにとって幸せな社会でしょうか。春夏秋冬ユニク ロばかり着て楽しいでしょうか。空洞化した日本の過疎地に、ユニクロは出店してくれるでしょうか」(前出・高橋伸彰氏)

 言い換えるならば、柳井氏が進むその先に、日本の、そして日本人の幸せはあるのだろうか—こんな疑問がいま、投げかけられているのである。

〈第3,4部へつづく・9月4日公開〉

「週刊現代」2013年9月7日号より

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら