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日本を「捨てる会社」「捨てない会社」【第1部】わが社は日本の会社です
世界一のトヨタはなぜ日本に残るのか

いまこそ問う、会社とは何か
利益のためなら、この国を捨てるのか
それで幸せか

【第1部】わが社は日本の会社です
世界一のトヨタはなぜ日本に残るのか

 経営とは、結局、道を選ぶことなのだろう。自らの想いを貫き、信じた道を突き進んでいく。葛藤、迷い、勇気。では、彼らはなぜ、その道を選んだのか。そこからニッポンの未来の姿が見えてきた。

一番大事なことは何か

 いまでも語り草になっている〝事件〟がある。

「トヨタは日本で生まれ育てられたグローバル企業であり、日本でのものづくりにこだわりたい」

 2011年5月に開催された、トヨタ自動車の決算会見でのこと。社長の豊田章男氏が日本でのものづくりへのこだわりを語ると、その直後、横に座っていた財務担当副社長の小澤哲氏が次のように切り返した。

「日本でのものづくりは一企業の努力の限界を超えているのではないか。社長に進言せざるを得ない」

 全国紙経済部記者が言う。

「公の場で社長と副社長が〝食い違い〟を見せるのは異例のことでした」

 折しも東日本大震災が襲った直後。1ドル80円台の超円高が続き、容赦なく日本企業の体力を奪っていた時期でもある。国内にこだわっていては、日本企業はバタバタと倒れてしまうのではないか。多くの日本人がそう感じていた時に、章男氏は、時流に逆らうように国内で踏ん張る決意を示したのである。

 あれから2年。トヨタは、'12年の世界自動車販売台数でライバルであるゼネラル・モーターズ、フォルクスワーゲンを抜いて、世界一に返り咲いた。

 さらに今年5月に発表されたトヨタの決算は、世界をあっと驚かせた。'13年3月期決算で約1兆3000億円の連結営業黒字を確保。5年ぶりに営業利益が1兆円の大台を突破し、ついに復活の狼煙を上げ始めたのだ。

 この日、都内で決算会見に臨んだ章男氏は、トヨタが単独決算でも営業黒字を確保したことを強調した。単独決算の黒字とはつまり、5年ぶりにトヨタが国内で納税できる態勢が整ったことを意味していた。会見の場で章男氏は、「やっと前を向いていける」と喜びを隠さなかった。

「章男社長はリーマン・ショック後の厳しい局面で社長に就任し、その後も米国でのリコール問題、東日本大震災、中国での反日デモなど相次ぐ難局に直面してきた。そうした中にあっても、国家レベルでものづくりを語り、国内300万台の生産を維持すると言い続け、断行してきました。

 目先の利益を追えば、安易に海外に逃げることもできたでしょう。しかし、それを断固として拒否した。その上で世界一の自動車メーカーに返り咲いたところに、凄味があるのです」(経済ジャーナリストの塚本潔氏)

 章男氏はなぜここまで「国内」にこだわるのか。そこに、トヨタ復活の秘密が隠されている。実はいまトヨタの成功を教訓に、「国内」にこだわることが、逆に、グローバル競争を勝ち抜く力の源泉になるとの指摘が出始めている。東京大学教授の高橋伸夫氏が言う。

「海外に進出する際は、現地の人材をなるべく多用したほうがいいと言われてきましたが、最近になって、より多くの日本人を駐在員として派遣している企業のほうがパフォーマンスがいいという分析結果が出てきています。ただ、優秀な日本人を派遣するというのが条件。つまり、トヨタのように日本国内に強固な土台を置き、国内できちんと人材を教育している企業のほうが、グローバル競争で勝ち残れる可能性が高いといえます」

 それだけではない。高橋氏が続ける。

「トヨタは国内に中核となる工場を置き、その周辺に集まる下請け企業を手取り足取り指導しています。こうした親子のような関係を維持し続けていると、下請け企業が成長し、下請けから革新的な技術開発がもたらされることがあります。コストの安い取引先へと、下請け企業を次々と乗り換えるドライな関係からは手に入らない競争力の源泉になるわけです。これも国内を土台に、辛抱強く下請けと付き合っていないと得られないものです」

 実際、トヨタがV字回復できた背景には、下請け企業との〝親子関係〟が欠かせなかった。円高にも負けないコスト体質を作るには、下請けの協力が必須。トヨタは数万社とも言われる取引先との間で、1銭、1円単位でいかにコストを切り詰められるかを相談。トヨタの幹部が自ら出向いて、仕入れ先と交渉する場面もあった。

「下請けもきつかったでしょうが、『トヨタのためなら』と頑張った企業も少なくなかった。結果、トヨタはコスト競争力が1兆円ほど増したと言われています」(前出・経済部記者)

 東日本大震災が発生した直後には、トヨタの従業員が被災した取引先の工場に赴くなど、協力して復興に尽力したこともあった。早期に生産再開できた背景には、国内で培ってきたこうしたキズナがあったのだ。

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