エジプトの内乱と麻生大臣の「ナチス発言」は国際社会の見方では点と線でつながっている
8月14日エジプトのデモ強制排除〔PHOTO〕gettyimages
【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.019 目次】
 ■分析メモ No.44「日露外務次官級協議」
 ■分析メモ No.45 「朱建栄事件」
―第2部― 読書ノート
 ■読書ノート No.56『宇野理論とアメリカ資本主義』
 ■読書ノート No.57『住宅貧乏都市モスクワ』
 ■読書ノート No.58「トイレの懺悔室」(『憤死』収録)
―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 今後のラジオ出演、講演会などの日程

深読みジャパン

邦丸: 今日はこのニュースを入口に、佐藤さんにいろいろ伺っていきます。

伊藤: 共同通信から。「エジプトのデモ強制排除 死者500人を超す」。

共同通信によりますと、混乱が続くエジプトで治安部隊がおととい行ったモルシ前大統領支持派の強制排除などにより、合わせて525人が死亡したことがわかりました。これは、エジプト保健省の報道官がおととい、明らかにしたものです。

国営メディアによりますと、強制排除に反発したモルシ派の数百人が昨日、カイロ近郊のギザの県庁舎を襲撃して放火しました。犯人の一部は治安当局に逮捕されたということです。これを受けて内務省は、公共施設や治安部隊への攻撃に対して実弾を使用すると警告しました。一方、モルシ派は今日のイスラム教の金曜礼拝の後に100万人規模のデモを行う計画で、治安部隊とのさらなる衝突が懸念されています。

邦丸: 「ジャスミン革命」、そして「アラブの春」と言われていた、そんななかでいわば中心的な役割を果たしていたエジプト。モルシさんという方がムスリム同胞団という比較的穏健なイスラム教の信者のみなさんに支えられる形で政権に就いたんだけれども、どうやらイスラムの教えを強く押し出したことによって反発を買って、途中から今度はエジプト軍が一応中立の立場で治めようとしたんだけれど、これがどうやら佐藤さん・・・・・・。

佐藤: 収拾がつかなくなった。

邦丸: アメリカが仲介したんだけれどもサジを投げたという状況のなかで毎日、死者のニュースが報じられていますね。

佐藤: この死者の数がどんどん増えていますよね。これはもうすでに500なんていう数ではないと思います。

邦丸: ほお。

佐藤: 数千、下手をすると万に達したかもしれない。だからそれを小出しにしていって、国際世論を慣らしているだけなんですよね。ですから、今日、100万人規模の集会があると、ここで必ず大きな衝突が生じますので、エジプトは事実上の内乱状態に入ってくると思います。

邦丸: これはアメリカのオバマ大統領も非難していますね、実弾を撃っているということに対して。内戦状態になると、どうなっちゃうんですか。

佐藤: 今、シナリオは直ちには読みにくいんですけどね、エジプトの基本的な構造というのは、3つの要素があるんです。1つは、「エジプト人」という意識。このエジプト人という意識は、「イスラーム教徒」プラス「コプト派のキリスト教徒」によってできているんですね。「われわれはエジプト人なんだよ」という意識なんです。そうすると、宗教の差はあまりない。

邦丸: はい。

佐藤: 2番目は、イスラーム教徒であるという意識。これは同胞団ですね。エジプトという枠はあまり大切ではないですよ。昔は同胞団はシリアにもあったわけです。ですから「イスラーム・ネットワークによって現行の国境の枠を超えたイスラーム国家をつくっていこう」ということで、モルシ前大統領は穏健派ということなんですけれど、基本的な方向性としてはイスラーム原理主義なんですね。そうすると、虹のスペクトルみたいな感じなんですよ。穏健派と過激派の境をどこで切ったらいいのかわからないんですよ。こういう状態である。

邦丸: なるほど。

佐藤: それから第三勢力でいちばん重要なのは「軍」で、モルシさんが出てくる前、初代のナセル大統領、次のサダト大統領、3代のムバラク大統領は全員、軍の出身なんですね。軍というと、軍隊で戦争しているように見えるんですけれど、そうではなくて、たとえばゼネコンも軍なんです。ピラミッドの横の観光用のラクダを管理しているのも軍。航空会社も軍。観光会社も軍。食料品会社も軍。ありとあらゆるところに軍がネットワークを持っていて、利権構造を持っているわけなんですね。ひと言でいうと、エジプトのエリートグループです。

プラス、イスラエルとの戦争で国民の大多数が軍に行っている関係で、軍というのは中立なんだという印象が非常に強かったんですよ。ところがこの段階に至って、軍と同胞団が正面からぶつかることになった。そうすると同胞団の穏健派の力が弱まるわけですね。要するに、「モルシさんみたいに穏健なやり方でやっていたから軍をつけ上がらせたんじゃないか。われわれも力によってこの軍事政権を打破しなければいけない」と。それから、「なんだ、キリスト教徒のやつらは。コプト派の連中をやっちまえ」と。こういう感じになってくるわけですね。

邦丸: うーむ。

佐藤: そうすると大混乱の内乱状態で、そこにアルカイダあたりが目をつけてくる。エジプトに拠点をつくれないか、あるいはエジプトの南のスーダンに再び拠点をつくれないかということで、大混乱が今、始まりつつあると思います。

邦丸: 飛び火ということも考えられますか。

佐藤: 考えられます。スンニ世界に飛び火すると、スエズ運河の運航も含めて、非常に面倒臭い状況になることも考えられるので、国際石油価格に与える影響も大きいでしょうね。そうすると、アベノミクスで今、「円」が安くなっていますから、それに加えて石油価格が上がり出したりすると、日本経済に相当の打撃を与えます。

邦丸: すでにエジプトの不安定な状態というのが石油価格にも表れ始めているということですから、今後、そういう色彩がよけい濃くなる可能性もあるということなんですね。

佐藤: そうなんですよ。それからもうひとつ、歴史的な記憶が引っ張り出されてくる可能性があるんですね。

邦丸: 歴史的な記憶?

佐藤: はい。実は、エジプト軍というのはナチスドイツの残党をそうとう取り入れてつくっているんですよ。

邦丸: エジプト軍が!

佐藤: そうなんです。ナチスのメッサーシュミットであるとか、V2ロケットであるとか、その技術を持って、捕まりそうなナチスの将校たちがエジプトに逃げたんです。

邦丸: え、逃げたということは、エジプトは受け入れたんですか。

佐藤: 受け入れたんです。だから、ナチスと提携してエジプト軍というのはできてきているんですよ。それをやらなければ、アメリカやイギリスとエジプトの関係はもっとよかったんですよ。エジプトはナチスと組んだのは戦後のことですよ。だからアメリカもイギリスもイスラエルを支持する方向にだんだん流れていっちゃったわけです。

邦丸: そんな過去があったんですか。

佐藤: こういう弾圧をすると、そういう過去のことをみんな思い出してくるわけですよ。そういえば、根っこにおいてそんな伝統があったな、と。

邦丸: う~む・・・・・・。

佐藤: ですから、意外と面倒臭いんですね。それと、麻生(太郎)さんのこの前のナチス発言もパンパンと歴史の連続性でつながっちゃうわけなんですね。そういえば日本でも最近、評価していたヤツがいたみたいだな、と。とにかく面倒臭い歴史の断片の点と線がつながるようなことがあって、意外なところから日本に飛び火しちゃうことがある。面倒臭いです。・・・・・・

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら